2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540508
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山中 勤 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80304369)
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Keywords | 生態水文 / 種間競合 / 根系吸水 / 水循環 / 生態系 |
Research Abstract |
昨年度は、植物根系による吸水深度推定手法の妥当性検証ならびに高度化を目的として、国内2箇所に試験サイトを設置し、定期的安定同位体モニタリングを行うとともに、蒸散速度・根密度等の物理計測を行った。また、取得されたデータをもとに、同位体トレーサー手法ならびに根系吸水モデルによる数値シミュレーションを実施し、推定された吸水密度プロファイルを比較した。その結果、両手法による推定結果が場合によって異なることが示されたが、同位体トレーサー手法による推定結果をもとに数値モデルを校正することで、より合理的な推定結果を得ることができた。しかしながら、両手法の整合性は未だ満足のゆくレベルではなく、さらなるモデルの改善が課題として残された。 今年度は、まず同位体トレーサー手法のアルゴリズムの改良を測るとともに、数値シミュレーションの計算条件をさらに多様化させ、昨年度得られた結果の追試を行った。そして、それらの成果の一部を国際会議において発表した。また同時に、より現実的で汎用性の高い数値モデルを構築するため、森林キャノピーと林床面の熱収支を診断的に解くモデルと、根系吸水を含む地表面下の水輸送を予測的に解くモデルとを結合させた新たなモデルを開発した。これを用いて、根系吸水過程の時空間変動を再現し、同位体トレーサー手法によって求められた根系吸水過程の動的な挙動の検証を行った。その結果、水の吸い分けが受動的な水理プロセスだけでなく、植物による根系機能の能動的制御の影響を受けている可能性が高いことが示唆された。 今後は、両手法のさらなる融合を目指し、同位体過程をモデルに陽に組み込み、さらに高い次元で推定結果の妥当性と精度の検証を行い、より信頼性の高い吸い分けメカニズムの解明を図る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外観測、同位体解析、ならびに数値シミュレーションのいずれにおいても予定通り進んでいる。同位体手法と数値シミュレーション手法による吸水プロファイルの推定結果に未だ不一致が認められるが、想定の範囲内であり、今後両手法の改良によって最適な推定手法が確立できると考えている。吸い分けメカニズムに関しては、高い分解能で時間変動を追跡できるモデルを開発したことで、能動的な吸い分けが重要であるとの示唆が得られており、これも当初の予想を裏付けるものである。なお、成果の公表に関しては、スケジュールの都合で国内開催の国際会議1件のみであるが、予算を翌年度に持ち越して海外開催の国際会議でも発表し、より幅広い討議を重ねたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
同位体トレーサを用いた逆解析手法のアルゴリズムとしてベイズ統計学を導入するなど、さらに改良を重ねるとともに、数値シミュレーションモデルの高度化を図り、推定結果の信頼性と精度の向上を目指す。また、複数の国際会議で成果を公表し、著名研究者との討議を経ながら確実な結論を導く予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度は国際会議での発表のため海外旅費を使用する予定であったが、校務のため都合がつかず次年度使用額(480,000円)として繰り越しを行った。2013年度は当初予定していたチュニジアでの国際会議のほか、ハンガリーで開催される国際会議においても成果公表を行う。これら2つの国際会議参加のため、上記の繰り越し額を含む800,000円を海外旅費として使用する。また、補足的な同位体分析の必要性が生じたため、フィルター等の消耗品の購入に80,000円を支出する。さらに、当初予定通り数値解析・シミュレーションの効率を上げるため、研究補助者の謝金として100,000円を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)