2012 Fiscal Year Research-status Report
斜面重力流に伴うエントレインメント及び混合過程に対する傾圧不安定渦の効果
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23540509
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 潔 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20345060)
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Keywords | 海洋物理学 / 海洋科学 / 大陸棚斜面 |
Research Abstract |
斜面重力流に伴う傾圧不安定渦とそれによって生じる海水輸送過程を調べるために、海洋循環モデルで再現された傾圧不安定渦に標識粒子を投入し、海水の輸送過程を標識粒子追跡モデルで調べる数値実験を実施した。海洋循環モデルは非静水圧モデル(静水圧近似をしないモデル)であり、斜面重力流に伴う海水沈降という、鉛直方向の運動が大事な現象を再現するために不可欠なモデルである。非静水圧過程をモデルで正しく再現することは、斜面重力流が大陸棚斜面を沈降する際に生じる周囲の海水のエントレインメント・混合過程を正しく評価するためにも不可欠なものである。また、標識粒子追跡モデルについては、非静水圧海洋循環モデルで採用されている格子系(重力流の再現に適しているArakawa-C 格子)に対応させるとともに、常微分方程式の解法には4次精度のルンゲクッタ法を採用し高精度の追跡を実施した。 実験では斜面上方から負の浮力(正の密度偏差)を供給することで重力流を作り、回転系において重力流に生じる傾圧不安定波の振幅が有限に達して渦流への遷移するときに、標識粒子を投入した。水平スケールおよそ20km・鉛直スケールおよそ100mの渦内の海水流動を十分に視覚可出来るように、粒子の投入間隔は水平方向に約400m・鉛直方向に約2mとした。その結果、海水の輸送過程を極めて効果的に視覚化することが可能となり、従来にない視点からの考察が可能となった。例えば、渦に取り込まれて輸送される粒子の軌跡は必ずしも軸対称な円形ではなく、そこから大きく歪められたものであることが明らかになった。また、粒子は渦内で循環を繰り返すことで、必ずしも斜面を一方的に沈降するのではなく、斜面に沿っての上昇と沈降を繰り返しながら結果として沈降が卓越することも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非静水圧(静水圧近似をしない)海洋循環モデルで再現された傾圧不安定渦に標識粒子を投入し、それに伴う海水の輸送過程を標識粒子追跡モデルで視覚化することなど、概ね当初の計画通りの研究進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続きモデルの改良を進めながら、流速場のシミュレーションと標識粒子追跡を実施する。シミュレーションでは、異なる強さ・規模・分布を持つ斜面重力流と傾圧不安定渦を再現して、それぞれにおいて標識粒子を高密度に初期配置してその移動経路を追跡する。その結果、重力流が沈降する際に、斜面上のどの様な位置(陸棚外縁付近、斜面中ほど、麓等)においてどれだけの量の海水が沈降流中にエントレインされるのか、また、エントレインされた海水が沈降流の起源水(高密度陸棚水)と均質に混合するまでにどれ位の時間を要し、その間どのような経路(流跡線)を辿るのか、そして最終的にどのような海水組成を持つ底層水がどれだけの量形成されるのか、を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度当初に比べて計算機周辺機器の価格が年度途中において幾分値下がりなどしたため、本年度は軽微な次年度使用額が生じた。 次年度以降については、大量に増大するデータを速やかに解析するための解析用サーバやソフトウェア、それらを記録するためのハードディスクを増設する予定である。また、これらの装置に安定した電気を供給できるように無停電電源装置を増設する予定である。国内外の斜面重力流の研究者とも密に情報交換するための出張も計画している。
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Research Products
(1 results)