2011 Fiscal Year Research-status Report
SIMSによる初期太陽系における親鉄性元素の分別に関する研究
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23540567
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
比屋根 肇 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70192292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森下 祐一 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報部門, 研究グループ長 (90358185)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 二次イオン質量分析計 / 親鉄性元素 / 元素分別 / 隕石 / 難揮発性包有物 / 希土類元素 / ヒボナイト |
Research Abstract |
本年度は、白金族元素のうち特にパラジウム(Pd)について、二次イオン質量分析計(SIMS)による分析条件をほぼ確立することに成功した。一次イオンは酸素のマイナスイオン、ビームサイズは25~35ミクロン、分析可能濃度はppmレベルである。当初予定していた高質量分解能法では充分に妨害イオンを除去できないことが判明したため、エネルギーフィルター法に切り替えてパラジウム分析を試みた。その結果、40eVのエネルギーオフセットを適用することにより、過度にパラジウムの感度を低下させることなく妨害イオンを除去することに成功した。濃度較正は人工的にパラジウムを照射した試料(照射量が既知)を用いた。現在、パラジウムと同様の分析条件により他の親鉄元素がどの程度分析可能か検討中である。本年度は分析値の定量化に不可欠な標準試料の整備にも力を注いだ。鉄をベースにした三つの合成合金試料を標準試料として準備し、白金族元素を含む多くの親鉄性元素(Pt, Ir, Os, Ru, Rh, Pd, Mo, Ta, W, Re, Ni, Ag, Mn, Cr, Ti)について相対感度係数を決めるための基礎実験を進めている。さらに、より揮発性の高いZn, Ga, Ge, Snなどの分析も視野に入れて、多数の市販の合金試料を準備中である。実際の隕石試料の分析は未着手であるが、いくつかの始原的隕石や、金属成分を多く含んだCH/CBコンドライトなどの隕石試料を購入し、薄片作成をおこなっている。また、マーチソン隕石から回収したヒボナイト含有CAIの中に、超難揮発性の親鉄元素に富むミクロンサイズの金属粒子が含まれているのを発見した。これらのCAIはマグネシウム同位体比が大きな質量分別を示し、いわゆるFUN包有物の可能性がある。太陽系形成最初期の物質進化を探る上で貴重な試料であり、さまざまな角度から分析を進めつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はマシンタイムの確保が難しく、分析実験については予定より遅れが生じたため、次年度以降の研究の準備、とくに標準試料の整備に力を注いだ。二次イオン質量分析計(SIMS)による分析法の確立については、白金族元素のうちパラジウムについて分析条件がほぼ確立されたが、他の元素については未達成であり、予定よりもやや遅れている。これは震災の影響が大きく、電力問題や装置そのものへの影響によりマシンタイムが充分に確保できなかったことを反映している。ただし、本年度パラジウムで試みた分析条件を探る基礎実験は非常に実りの多いもので、他の親鉄性元素の分析にも適用可能であり、来年度以降において目標の達成は充分可能であると考えている。一方、SIMSによる元素の定量分析に不可欠な標準試料の準備状況は大きく進展している。三つの合成合金のほか、市販の合金試料を多数準備することにより、目的としていたほとんどの親鉄元素について、濃度既知の標準試料を整備することができた。多数の標準試料を含むSIMS分析用の薄片を作成しており、今後の分析作業が非常に効率よくおこなえる段階にきている。実際に分析する隕石試料については、始原的コンドライトの試料が既に準備済みであるほか、金属成分を多く含んだCB/CHコンドライトなどを購入して薄片作成をおこないつつあり、ほぼ予定どおりに進行している。また、マーチソン隕石から抽出したヒボナイト含有CAI中に超難揮発性の金属微粒子を発見し、予備的な分析としてマグネシウム同位体分析をおこなった。その結果、それらがFUNと呼ばれる太陽系形成最初期の物質進化を探る上で貴重な試料である可能性が判明した。それらCAIについての研究成果はそのつど学会において発表している。以上を総合的に判断すれば、おおむね順調に研究が進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、準備した多数の標準試料を用いて、二次イオン質量分析計(SIMS)を用いた親鉄性元素の分析を試みる。パラジウムで成功したエネルギーオフセット法を中心に分析条件の検討をおこなうが、必要に応じて高質量分解能法も試みる。次に、SIMS分析における定量化に必要な各元素の相対感度係数の決定に力を注ぐ。これは今後の研究を進める上で非常に重要な基礎実験であり、得られたデータは世界中の研究者が使用可能な基礎データとしても重要である。以上の基礎実験を進めるとともに、実際の隕石試料に含まれる金属粒子の分析にも着手する。まず、変成度の低いコンドライト隕石中のコンドルール、難揮発性包有物(CAI)、孤立オリビン粒子などに含まれる金属粒子を分析する。いくつかの試料については、親鉄性元素の分析と並行して希土類元素の分析もおこない、その結果を比較することにより、元素分別の生じた温度や酸素分圧などの条件を推定する。原始太陽系星雲内での親鉄元素の分別と親石元素の分別の違いが見えてくる可能性もある。これらの結果をもとに、原始太陽系星雲内における元素分別や物質進化の過程について考察をおこなっていく。超難揮発性の金属微粒子が発見されたマーチソン隕石中のヒボナイト含有CAIについては、微量金属元素分析、希土類元素分析に加えて、さまざまな同位体分析を総合しつつ、太陽系最初期の物質進化について研究を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主要な研究費の使途は物品費と旅費である。物品費としての主な使途は、SIMS関連の消耗品費、標準試料(合金)の購入費、隕石など研究試料の購入費、薄片作成等に関連する消耗品費等である。旅費は、東京大学から分析装置のある産業技術総合研究所までの旅費、および学会等への参加費として使用する。その他、論文の投稿料などに使用する。
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