2011 Fiscal Year Research-status Report
キラル芳香環分子の光誘起コヒーレント電子動力学に関する研究
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23550003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤村 勇一 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90004473)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 環電流 / π電子回転 / キラル芳香分子 / コヒーレント電子状態 / 超短時間パルス / ポンプーダンプ制御 / ボンドカレント |
Research Abstract |
我々は以前の研究において平面キラル芳香族分子の光誘起電子波束ダイナミクスの生成と制御に関する基本原理を見出した。 本研究ではこれまでの研究成果をもとに, 3次元非平面キラル芳香族分子における光誘起コヒーレント環電流の生成・制御法を確立することを目的とした。3次元非平面分子のπ電子運動による環電流は2次元制御の実用的な観点から重要である。今年度は、代表的な3次元キラル環状芳香族分子である2つのフェノール環が非平面構造をもつ(P)-ビフェノール分子をとりあげた。パルス励起後の電子の時間発展は密度行列の運動方程式を解くことで得られた。単純化のため、マルコフ近似のもとで解いた。光許容の3つの電子励起状態のうち、2つをコヒーレントにパルス励起することにより、分子軸と長軸を含む面に垂直な電子回転角運動量ベクトルに加えて平行な電子回転角運動量ベクトルが生成されることを見出した。2つの電子状態が同じ対称性を持つ場合に垂直な角運動量が生成され、異なった対称性を持つ場合、平行な角運動量が生成される。これによって生じる環電流は2つのフェノール環で同じ方向とお互い反対に流れる。環電流の大きさは分子の結合によってことなるので、bond current(ボンドカレントとよぶ)を定義した。結合の中心において結合と垂直な面を通過する電流の総和がボンドカレントの定義である。コヒーレントに励起された2つの電子状態の対称性が異なると、2つのフェノール環を結ぶ単結合C-Cのボンドカレントはゼロでない興味ある結果を得た。この結果は環どうしで環電流が移動することが可能であることを示唆している。さらに、環電流のポンプーダンプ法による制御法を確立した。ポンプとダンプパルスはお互い重なりがあり、ある位相をもたせて環電流の方向を制御することが出来る。πパルスにする必要はなく、イオン化がおさえられるパルス強度で制御可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目的「3次元非平面キラル芳香族分子における光誘起コヒーレント環電流の生成・制御法を確立すること」が達成されたので。現在、結果は論文として国際誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度新たに環電流の移動の可能性を見出した。これは、3次元非平面分子特有のπ電子運動による新しい環電流のダイナミクスである。この現象の理論的な解明をすすめる。さらに、今年度はマルコフ近似のもとで電子ダイナミクスを扱った。今後は、対象の分子が凝縮系中に存在している一般的な場合を考えて、マルコフ近似を超えた非マルコフ過程でのコヒーレント電子ダイナミクスの解明を進めたい。溶媒分子の弾性的な相互作用が電子コヒーレンスにどのような効果を与えるかを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.コヒーレント電子ダイナミクスの計算結果の解析のためにパソコンを購入2.これまでの研究結果・成果の発表のために国内外旅費3.非マルコフ過程でのコヒーレント電子ダイナミクスの解明のための研究支援者に対する謝金と旅費4.電子ダイナミクス関連図書費、その他なお、次年度使用額は、今年度研究を効率的に使用したために発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせて、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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