2012 Fiscal Year Research-status Report
キラル芳香環分子の光誘起コヒーレント電子動力学に関する研究
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23550003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤村 勇一 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90004473)
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Keywords | 環電流 / π電子 / キラルビフェノ―ル / 電子コヒーレンス / 環電流誘起磁場 / 超短時間パルス / 量子制御 / 動的芳香族性 |
Research Abstract |
今年度は、これまでの研究成果をもとに、以下の2つの研究課題に取り組んだ。1)コヒーレント環電流誘起磁場発生シミュレーション。2)コヒーレントπ電子回転と誘起環電流を生成する最適レーザー場の量子制御設計。1)(P)-ビフェノールについて、コヒーレント環電流誘起磁場をフェノール環を円とする単純環モデルと分子構造を取り入れた厳密な方法と2つの評価法を採用した。環からの距離の関数として誘起磁場の大きさを評価した。2つの計算結果は距離が1.5オーグストローム以上では差異はなく単純環モデルの計算で十分であることが示された。それらの大きさは、照射レーザーパルスの大きさとほぼ同程度あり、パルスと重なる時間領域では注意が必要であることが明らかになった。2)については、量子制御の結果からパルスが電子回転方向を換える時間内と時間を超える場合との2つの場合を考えなければならないことが明らかになった。前者の場合はポンプーダンプパルス法が最適な方法である結果を得た。後者の場合は量子制御法を採用して初めて得られた。現在、電子回転方向を換える時間をいかに伸ばして一方方向に電子回転を持続させるかそのレーザー電場の構築を目指している。熱浴効果は、超高速光スイッチングデバイスへの適用における重要な課題である。今年度では、予備的研究として、熱浴による電子状態への反作用を考慮した量子マスター方程式を非摂動法により解くアルゴリズムを計算機に組み込むことが出来た。今後熱浴をモデル化して、マルコフ近似および非マルコフ条件下でのコヒーレント環電流の時間依存性を求め、熱浴効果を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の2つの研究課題についてその目的をほぼ達成し、1についてはアメリカ物理学会誌Journal of Chemical Physicsに公表した。現在、2)についての論文を作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
熱浴効果は、超高速光スイッチングデバイスへの適用における重要な課題である。熱浴による電子状態への反作用を考慮した量子マスター方程式を非摂動法により解く。熱浴と電子状態の相互作用の大きさ、熱浴の相関時間が有限の場合の非マルコフ性を明らかにしたい。この非マルコフ性の寄与により凝縮中においてもコヒーレント環電流が100フェムト時間内で持続することができるか理論的に確認したい。さらに電子励起状態における非定常状態での芳香族性についての課題に取り組みたい。具体的には、二つ以上の環状分子がつながっている場合のπ電子電流の環移動の可能性など、励起状態で起こる芳香族性に関する基本原理の確立をめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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