2011 Fiscal Year Research-status Report
P型フォトクロミック反応を利用した蛍光モジュレーション分子アセンブリの理論設計
Project/Area Number |
23550006
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
天辰 禎晃 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90241653)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 分子設計 / 電子励起状態 / フォトクロミック反応 / 非経験的分子軌道法 / 分子アセンブリ / 蛍光モジュレーション |
Research Abstract |
反応物および生成物のいずれも熱的に安定でその両者の変換が光反応によってのみ進行する化学反応をP型フォトクロミック反応といい、その代表例がジアリールエテン類の光閉環・開環反応である。これらの分子群は、その高速光化学反応を利用した光スイッチや光記録などの光機能性材料として関心がもたれ、大いに研究がなされている。しかしながら、これらの光化学的過程には合理的な解釈ができていない点も多く、そのことが原因でさらに機能性の高いジアリールエテン類の実現が滞っている点もあると考えられる。そこで、本研究では、信頼度の高い非経験的分子軌道計算によりこれらの光化学的過程について理論的な検討を行う。そして、その知見をもとに、分子アセンブリの一つとして近年報告されている蛍光モジュレーションの発現機構をこれらの分子群のフォトクロミック反応における置換基効果という観点から理論的に解析する。平成23年度においては、以下述べる2点を検討した。 その一つが、ジアリールエテン類の光反応における量子収率の偏性に関する置換基依存性の問題である。ジアリールエテン骨格に種々の置換基を導入することにより、量子収率を決定する最も重要な要因の一つである円錐交差を計算した。その結果、置換基の立体的および電子的要因により円錐交差が大きく影響を受けていることが分かった。 さらに平成24年度以降はこれらの分子群に関する蛍光共鳴現象などの物理化学的要因を検討することになるため、より大きなジアリールエテン類が対象となり、計算規模の縮減が必須である。そこで、CASSCF法で検討した上記の分子群について、TDDFT計算を行い、ほぼ同様に結果が得られることを確認した。これにより、平成24年度以降の計算に関して、計算コストを軽減しながらCASSCF計算と同程度の信頼度でTDDFT法により計算を行うという方針が確立された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主たる目的は、理論計算の立場から、P型フォトクロミック反応の典型例であるジアリールエテン類の光閉環・開環反応のメカニズム、およびこれらの分子群においてみられる蛍光モジュレーションの物理化学的要因を解明することである。その端緒として、平成23年度は、この光化学反応における量子収率の偏性を、内縁性置換基(トリフルオロメチレン架橋、2位メチル基、チオフェン環、フラン環)による円錐交差への電子的および立体的効果という観点から検討した。これにより実際に合成されているジアリールエテン類の内縁性置換基の役割が明らかになった。さらに、平成24年度以降はこれらの分子群の蛍光モジュレーションに関する物理化学的要因の解明が主たる検討課題となり、外縁性置換基(4,5位におけるπ共役性置換基)を考慮する必要がある。このことは、対象分子が平成23年度に取り扱ったものに比べ格段に大きくなることを意味し、計算コストの縮減が必須となる。この点に関し、「研究実績」の項で述べたように、TDDFT法が信頼度の高いCASSCF法と同様の結果を与えることを確認した。これにより、平成24年度以降は、TDDFT法により計算コストを抑えつつ、より大規模なジアリールエテン類の計算を進めていくという方針が定まった。 一方、フルギド類のP型フォトクロミック反応の検討についてはほとんど進行していない。この理由としては、新規導入ワークステーションの導入時におけるハード・ソフトウェアの両面でのトラブルにより安定稼働が導入から2か月ほどかかってしまったことがあげられる。しかし、本テーマについては、計算調書の段階でも、ジアリールエテン類に対する副テーマとしての位置づけで、研究計画の主要部分に関する遂行の遅延とは考えていない。 以上のことから、研究計画は"おおむね順調に進展している"と自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降の主要なテーマは、上述の平成23年度の研究実績をもとにした"ジアリールエテン類の光スイッチ機能を利用した蛍光モジュレーション分子アセンブリに関する理論的検討"である。具体的には、外縁性置換基としてアントラセンやフェノールを導入したジアリールエテン類についての電子励起状態を計算する。これにより、置換基とジアリールエテン骨格との電子的な相互作用という観点から置換基効果を調べ、実験的に知られている蛍光共鳴現象に対する合理的な解釈を試みる。 この計算遂行に当たっては、外縁性置換基の大きさから考えて、計算コストの縮減が必須となる。しかし、ジアリールエテン類および内縁性置換基に対しては従来通りCASSCF法、外縁性置換基に対してはMM法というQM/MM法を適用することはできない。なぜならば、本テーマにおいては外縁性置換基の電子的要因を考慮に入れるということは必須だからである。これを現実的な計算コストで可能ならしめるのがTDDFT法である。TDDFT法の適用に関しては、上述の通り、信頼度の高い計算方法であるCASSCF法とほぼ同様の計算結果が得られることを確認しているので、今後の計算においては、外縁性置換基も含めた全系をTDDFT法で取り扱うことにより計算の効率化を図る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画調書(平成23~25年度)では、平成23年度に研究期間全体の研究費の多くを充てワークステーションを導入し、平成24,25年度は国内外での成果発表のための出張旅費に充てる予定であった。しかし、導入したワークステーションが当方が必要とする計算性能を達成しつつ、当初の予定に比べて購入価格を抑えることができた(注:ワングレード上のワークステーションについては本研究費内では購入不可能)。そこで、平成24年度においては、平成23年度未使用額、平成24年度交付額に加え、平成25年度交付予定の一部を割り当てることにより、計算機能そのものは平成23年度導入のものに比べ劣るが、もう一台のワークステーションの導入が可能となる。これにより、(ほぼ)同レベルの能力を有するマルチノードでの計算環境の構築ができることになり、研究計画進行においてさらなる向上が見込まれる。 また、今回のマルチノードでの計算環境の構築により、本研究課題をさらに発展させたテーマである「超分子マシナリーへの応用」において必要とされる計算機環境の見積もりも可能となる。この試行を次期研究費申請(平成26年度)における参考としたい。 以上2つの観点から平成24,25年度の研究費使用計画を若干変更し、研究計画遂行におけるさらなる向上を目指したい。
|
Research Products
(1 results)