2012 Fiscal Year Research-status Report
強相関系の為の量子古典ハイブリッド法の開発と生体酵素活性中心への応用
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23550016
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山中 秀介 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10324865)
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Keywords | 光合成光化学系II / 密度汎関数理論 / 磁性状態 / 酸化状態 / QM/MM境界問題 |
Research Abstract |
2012年度の研究でも、沈・神谷グループにより解明された光化学系IIの水分解反応中心をターゲットに第一原理計算による研究を進めてきた。彼らのX線回折実験によって得られた構造は暗所安定のS1状態に対する解像度1.9Åのもので、さらに(1)詳細な構造、(2)別酸化数の状態の構造とスピン非制限密度汎関数理論によって電子構造の解析を進めた。特にS0~S3状態のいずれに対しても、ダングリングMnイオンとcubane中の酸素-Mnを結ぶMn-O-Mnの構造が、酸素の位置が右に偏るMn…O-Mnと、左に偏るMn-O…Mnの2つの局所安定構造からなるdouble well型ポテンシャルである事、酸化数が上がるにつれてダングリングが外れるMn…O-Mnが安定化する事を明らかにした。これは、高酸化状態でダングリングMn周りに水が挿入しうる事を示し、水の酸化反応機構の解明の鍵となる結果である。 また同時に、周囲の環境効果を取り入れる為のQM/MM境界問題にも取り組んだ。具体的には、線形応答関数を計算する事で、境界設定のガイドラインを次々と設定していっている。具体的には、(i) 共有結合系では、平衡状態近傍では片側の摂動を加えても密度誤差の伝播は比較的小さいが結合不安定点で誤差伝播が最大となり、完全なジラジカルでは最小となる。(ii)π共役系では共鳴構造を反映した減衰型伝播モードが起こる。(iii)MDによって得られた平衡状態のポリペプチド系では、アミド平面が誤差伝播単位となり、Cα原子を1つまたぐ毎に誤差は1/10~1/100程度減衰する。αヘリックス等の水素結合を介した誤差伝播は小さいが無視できない。等の一般的結果を得た。今後、具体的なQM/MM境界法と組み合わせた定量的解析を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光合成のPS IIの機構解明が世界的に見ても熾烈な競争状態に入っている為、そちらの応用研究を重点的に進行している。その結果、応用計算結果という意味では世界の競合研究者に負けない成果をあげており、植物による光エネルギーを利用した水の分解反応の解明という、人類に取って重要な課題解決に向け着実進んでいる。昨年度より世界に先駆け発表していた磁性状態の実験との齟齬も、他の研究グループ等により発表されている後発研究の結果と合致しいる。また本年度は構造依存性に重点を置き、特に酸化状態が進んだS2, S3での構造解明によって、ダングリングMnの位置、反応機構に対する1つの仮説が得られた事は極めて大きいと言える。 ただ上記成果の一方、一般化スピン軌道(GSO)ベースの密度汎関数理論(DFT)、共鳴配置間相互作用(Res-CI)の理論開発に関しては多少遅れている。勿論、現在進行中であるので、本年度中には成果を発表する予定である。 理論的に重要な成果は磁気的相互作用やESRのA値用の汎関数の吟味である。Review記事にそれぞれ1報発表したが、Mn錯体に特化した汎関数の構築という新しい試みの成果が出つつある。 一方、QM/MM理論への展開に関しては、線形応答関数に基づく境界問題へのアプローチという新しいアイデアに基づく研究のプライオリティは取れたと言える。こちらも今年度定量的理論への発展を行う予定である。 総合すると、昨年度来そうであったのだが、沈・神谷らのX線回折構造の発表で幕を明けた熾烈な応用計算分野での競争状態の中、沈・神谷構造に対する世界初の磁性状態の発表から始まり、当初の予定を大幅に上回る成果が上がっている一方、その為基礎理論およびコード開発は少し遅れている。今年度はその基礎理論へ研究の重点をシフトし、バランスの良く成果を出していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画にあった一般化スピン軌道(GSO)ベースの密度汎関数理論(DFT)、共鳴CIに関する研究を推進する。本年度前半に開発を完了し、後半には成果を出していきたい。具体的には、マンガンクラスターの磁気構造のGSO-DFT計算を実施する予定である。光合成系ではKokサイクル中でもESRのスペクトルでスピン状態2状態が観測されておりスピンフラストレーションが想定されている酸化状態S2状態に関しては、密度汎関数理論という取り扱いの範囲では、GSO-DFT計算が必要である。よってS2状態をターゲットとし応用計算を目標とする。 以上述べてきた通り、蛋白質PSII中の混合原子価のMn四核クラスターを触媒とする水分解反応と言う、理論化学としては総合的な取り扱いが必要な系をターゲットとしている為、かなり基礎理論開発に関しては「戦線」が広がった状況である。しかも研究開発の過程で、各々がまた重要な副産物的な成果を産みつつあるので、それら新しい課題に関しては本年度以降も研究開発を継続する必要がある。PS II系に関しても、当初の研究計画では重要とは考えていなかった、熱揺らぎ等の効果は分子動力学や分子液体論との組み合わせが必要となる事が分かってきた。ただQM/MM MDは1fsステップで1nsだと1ステップ1時間としても計算に100年以上と非現実的な時間が必要である(それゆえ実際世界的に見ても誰一人手を出せていない課題である)為、本研究期間内での熱揺らぎの考慮は厳しい状況で、今後、新規研究計画を練りたい。 ただ、本年度内に(1)GSO-DFTコードの確立。(2)線形応答関数計算法の確立、の項目は達成する。PS II系に関しても、QM/MM(非MD)計算で可能な解析は完了する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予算が50万円となっているので、計算機はIntelの新規チップ搭載の廉価(10万円以下)のPCを1台購入予定であるが基本的には研究成果発表に主として使用していきたい。具体的には、国内で開催される国際会議で、(1)GSO-DFT理論およびプログラム開発と、それを用いた応用計算の成果の発表、(2)線形応答関数に基づくQM/MM境界問題へのアプローチ、それぞれについて発表する予定でいる。他にも国内の会議で、Mn系の計算成果、基礎理論開発の進展に応じて発表していきたい。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Structure and Reactivity of the Mixed-Valence CaMn4O5(H2O)4 and CaMn4O4(OH)(H2O)4 Clusters at Oxygen Evolution Complex of Photosystem II. Hybrid DFT (UB3LYP and UBHandHLYP) Calculations2012
Author(s)
S. Yamanaka, T. Saito, K. Kanda, H. Isobe, Y. Uena, K. Kawakami, J. -R. Shen, N. Kamiya, M. Okumura, H. Nakamura, K. Yamaguchi
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Journal Title
International Journal of Quantum Chemistry
Volume: 112
Pages: 321-343
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Possible Mechanisms of Water Splitting Reaction Based on Proton and Electron Release Pathways Revealed for CaMn4O5 Cluster of PSII Refined to 1.9 A X-Ray Resolution2012
Author(s)
T. Saito, S. Yamanaka, K. Kanda, H. Isobe, Y. Takana, Y. Shigeta, Y. Umena, K. Kawakami, J. -R. Shen, N. Kamiya, M. Okumura, M. Shoji, Y. Yoshioka, K. Yamaguchi
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Journal Title
International Journal of Quantum Chemistry
Volume: 112
Pages: 253-276
DOI
Peer Reviewed
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