2012 Fiscal Year Research-status Report
内殻励起による選択的結合切断反応:超高速電子移動計測によるアプローチ
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23550017
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
和田 真一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60304391)
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Keywords | 内殻励起反応 / 選択的化学結合切断 / 自己組織化単分子膜(SAM) / 共鳴オージェ電子分光 |
Research Abstract |
内殻電子励起特有のサイト選択的結合切断反応が表面分子系で顕著に見出される要因として、「反応部位から基板への電荷の有効な散逸により二次的反応が極度に抑制される」との申請者らの仮説を検証するため、主鎖を導電性が高い芳香環に置き換えた自己組織化単分子膜(SAM)を試料とし、芳香環を持つメチルエステル修飾チオールを5種類用意した。初年度である昨年度はこれら試料の内殻励起による各脱離イオンの収量スペクトルを高エネルギー加速器研究機構のPFシングルバンチ運転によるTOF測定から得た。申請者が考案した選択性の解析手法を用いて各SAMにおけるイオン脱離の選択性を定量的に評価・比較した。本年度は各種SAM試料の炭素および酸素内殻励起領域における吸収スペクトル測定と共鳴オージェ電子分光測定を広島大学の放射光HiSORで実施した。イオン化しきい値以下のπ*およびσ*共鳴励起状態でのオージェ遷移強度の計測から、分子構造の違いによる電子の局在/非局在性や伝導性の変化を系統的に評価することを試みた。 共鳴オージェ電子分光を利用したcore-hole clock法による超高速電子移動速度の計測は、特定の共鳴励起状態でのオージェ電子スペクトルを計測し、共鳴オージェピークと、励起電子の金基板への失活(自動イオン化)によって生じる正常オージェピークとのピーク成分比を導出し、その励起電子の失活の早さすなわち電子移動速度を評価する。本課題で用いている比較的大きな有機分子の表面吸着系ではこの共鳴オージェと正常オージェのオーバーラップが非常に大きいため、ピーク成分比の定量性を確実にするための評価方法を検討した。その結果、選択的イオン脱離反応が現れるσ*(O-CH3)共鳴励起状態周辺で電荷移動速度が速まるという大きな変化があらわれることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内殻電子励起特有のサイト選択的結合切断反応が表面分子系で顕著に見出される最大の要因として、「反応部位から基板への電荷の有効な散逸により、二次的反応が極度に抑制される」ためであると申請者らは考えており、この仮説をより能動的に検証するため、本研究では、高い選択性が見出された脂肪鎖SAMの絶縁性鎖部位を導電性が高い芳香環に置き換え、選択的反応の更なる向上を目指すとともに、「イオン脱離反応の選択性」と「SAM構成分子の基板への速い電子移動」との関係性に着目し、下記2項目の実験遂行を目指している。 (1) PFでの単バンチ運転における、内殻励起によるサイト選択的イオン脱離反応の計測 (2) 共鳴オージェ電子分光を利用したcore-hole clock法による超高速電子移動速度の計測 これら2項目の実験を、系統的に主鎖の芳香環が異なる7種類のメチルエステル修飾チオールSAMを用意して3年間で実施することを目指している。 初年度は(1)のイオン脱離反応計測に重点を置き、5種類の試料について実験を実施することができた。本年度はそれらイオン脱離データの解析を進めるとともに、4試料について共鳴オージェ電子分光計測を実施し、有機薄膜の炭素領域におけるcore-hole clock計測解析の手法を確立させ、その4試料での電荷移動速度励起状態依存性について考察することができた。 以上のことから、実験上の達成目標の2/3程度を遂行することができたことになることから、おおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行に欠かすことができない脱離イオン測定には、PF単バンチ運転での飛行時間型イオン質量計測実験を必要とするが、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所の方針により、従来の年3回のシングルバンチ運転が1回のみの実施に大幅に縮小された。そのため、初年度はPFでの脱離イオン測定を重点的に実施した。更に翌年本年度ではシングルバンチ運転の実施が行われなかったこともあり、この脱離イオン測定に用いた芳香環を有するメチルエステル修飾チオールSAMを対象試料として、共鳴オージェ分光計測に重点を置いて実験を実施した。 最終年度にあたる次年度では、芳香族チオール分子の2種類のF置換体を新規に合成し、電荷移動の起こりやすさを抑制した環境下でのイオン脱離反応計測と共鳴オージェ電子分光計測を実施する。また、これまでの実験データを補完すべき試料に関して、イオン脱離計測およびオージェ電子分光計測を実施し、総合的な分子構造および電子の局在性・伝導性に相関したイオン脱離反応の選択性を評価し、内殻励起特有のサイト選択的結合切断反応の機構解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度と2年目とあわせて、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PFにおけるシングルバンチ運転での実験実施機会が1回と限られてしまった。そのため、イオン検出装置の整備・改良を次年度に遂行することとして、当該研究費を使用する。また新規合成試料の購入も行う。その他経費に関しては当初計画通りの研究遂行に必要な経費として計上したものである。
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Research Products
(22 results)
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[Journal Article] Deep inner-shell multiphoton ionization by intense x-ray free-electron laser pulses2013
Author(s)
H. Fukuzawa, S.-K. Son, K. Motomura, S. Mondal, K. Nagaya, S. Wada, X.-J. Liu, R. Feifel, T. Tachibana, Y. Ito, M. Kimura, T. Sakai, K. Matsunami, H. Hayashita, J. Kajikawa, P. Johnsson, M. Siano, E. Kukk, B. Rudek, K. Ueda 他10名
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 110
Pages: 173005(1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Anomalous signal from sulphur atoms in protein crystallographic data from an X-ray free-electron laser2013
Author(s)
T. Barends, L. Foucar, R. Shoeman, S. Bari, S. Epp, R. Hartmann, G. Hauser, M. Huth, C. Kieser, L. Lomb, K. Motomura, K. Nagaya, C. Schmidt, R. Strecker, D. Anielski, R. Boll, B. Erk, H. Fukuzawa, S. Wada, I. Schlichting 他25名
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Journal Title
Acta Crystallographica Section D
Volume: 69
Pages: 838-842
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Ultrafast charge rearrangement and nuclear dynamics upon inner-shell multiple ionization of small polyatomic molecules2013
Author(s)
B. Erk, D. Rolles, L. Foucar, S. Wada, K. Ueda, M. Swiggers, M. Messerschmidt, C.D. Schröter, R. Moshammer, I. Schlichting, J. Ullrich, and A. Rudenko 他15名
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 110
Pages: 053003(1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Size-dependent ultrafast ionization dynamics of nanoscale samples in intense femtosecond X-ray free-electron laser pulses2012
Author(s)
S. Schorb, D. Rupp, M.L. Swiggers, R.N. Coffee, M. Messerschmidt, G. Williams, J.D. Bozek, S. Wada, O. Kornilov, T. Moller, and C. Bostedt
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 108
Pages: 233401(1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Double Core Hole Spectroscopy of Small Molecules2012
Author(s)
Kevin C. Prince, Robert Richter, V. Feyer, Nora Berrah, Shin-ichi Wada, Maria N. Piancastelli, Motomichi Tashiro, and Masahiro Ehara 他13名
Organizer
the conference "Frontiers in Optics/Laser Science XXVIII (FiO/LS)
Place of Presentation
New York, USA
Year and Date
20121014-20121018
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[Presentation] EUV-Pump NIR-Probe実験によるXeクラスターのナノプラズマのダイナミクス2012
Author(s)
酒井司, 永谷清信, 八瀬哲志, 松波健司, 八尾誠, 福澤宏宣, 本村幸治, 上田潔, 和田真一, 林下弘憲, 齋藤則生, 永園充, 富樫格, 登野健介, 矢橋牧名, 石川哲也, 大橋治彦, 仙波泰徳
Organizer
物理学会秋季大会
Place of Presentation
横浜
Year and Date
20120914-20120918
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[Presentation] EUV-FELを用いたXeクラスターの光電子運動量画像計測2012
Author(s)
松波健司, 永谷清信, 八瀬哲志, 酒井司, 八尾誠, 福澤宏宣, 本村幸治, 上田潔, 和田真一, 林下弘憲, 齋藤則生, 永園充, 富樫格, 登野健介, 矢橋牧名, 石川哲也, 大橋治彦, 仙波泰徳
Organizer
物理学会秋季大会
Place of Presentation
横浜
Year and Date
20120914-20120918
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[Presentation] Surface-Site-Selective Study of Valence Electronic States of Si(111)-7×7 Adsorbed with Water Using Si-L23VV Auger Electron Si-2p Photoelectron Coincidence Measurements2012
Author(s)
S. Arae, S. Kajikawa, H. Hayashita, M. Ogawa, S. Ohno, S. Wada, T. Sekitani, Y. Sato, S. Hanaoka, T. Kakiuchi, K. Yanase, K. Mase, M. Okusawa, and M. Tanaka
Organizer
International Conference on Many Particle Spectroscopy of Atoms, Molecules, Clusters and Surfaces
Place of Presentation
Berlin, Germany
Year and Date
20120827-20120901