2012 Fiscal Year Research-status Report
自由エネルギー面上における酵素反応メカニズムの新しい解析手法の開発
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23550021
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
麻田 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10285314)
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Keywords | 自由エネルギー勾配法 / Nudged Elastic Band法 / 分子動力学シミュレーション / QM/MM 法 / 反応経路最適化 / 凝縮系 / プログラム開発 |
Research Abstract |
本年度の成果は、自由エネルギー勾配(FEG)法を用いて自由エネルギー面上における分子動力学シミュレーション(MD)を実行するためのプログラムを独自に作成することに成功した点である。同時に、本プログラムをすでに自由エネルギー面が報告されているアラニンジペプチド分子に適用することで、室温付近において自由エネルギー面上で出現可能な構造を探索することに成功したことである。 従来は自由エネルギー面上の安定構造を得ることだけに注目されてきたが、局所安定構造にトラップされてしまう問題が生じていた。たとえばFEG法と最小エネルギー反応経路を得ることができるNudged Elastic Band(NEB)法を組み合わせることで、自由エネルギー面上の反応経路が最適化できるが、初期設定経路に依存しやすい欠点を伴っていた。この問題を解決するために自由エネルギー面でもMD法が適用可能であることを示せたことは大きな進展である。 一般に溶媒など分子集合体中の反応経路を最適化することは、化学反応における協同効果を解析するうえで大変重要な課題であるが、未知の反応経路を最適化する際に、局所安定経路にトラップされていたのでは、正しい反応経路を得ることは極めて困難である。ここで開発したプログラムは、トラップから抜けだすための有効な方法になりうる。 高速化についてのアイデアとして、Charge Response Kernel(CRK)法を用いたMD計算を組み入れることで高い計算精度を維持したままでFEGを得ることに成功した。さらに、CRKに代わるより方法として、一定間隔で分極電荷を更新する方法も開発することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自由エネルギー面上における分子動力学シミュレーションの試みはこれまで行われておらず有効性については知られていない。本年度は、FEG法により自由エネルギー面上のグラジエントを求め、その勾配を用いて分子動力学シミュレーションを実行するプログラムを作成することで実在系に対して適用可能にしたことが、研究の目的に対する大きな進展である。 さらに、具体的な系としてアラニンジペプチドをとりあげて、探索の有効性を確認することまで実現できた。従来、自由エネルギー面を知るためには、多数の構造を計算したのちに、せいぜい二次元の構造パラメータを取り上げて自由エネルギー面を計算することが行われてきたが、複雑系では自由エネルギー面の情報は多自由度にまたがるため、その算出が大変困難であった。今回開発した方法は、多自由度系の自由エネルギー面上を探索する新たな手法といえる。複雑系への展開に向けて前進したといえる。 通常の分子動力学シミュレーションと違って、自由エネルギー面上の分子動力学シミュレーションで指定する温度パラメータは、単なる構造揺らぎを引き起こす計算上のパラメータである。このパラメータを調整することで、多自由度系の局所自由エネルギー安定構造から比較的安定な自由エネルギー面上の障壁を経て他の自由エネルギー安定構造に移行するための手法として有効であることが確認できた。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、自由エネルギー面上のMDシミュレーションについて、Dual Hamiltonianを用いた計算時間の高速化をさらに進めた後、反応経路の局所安定構造からの離脱方法に対してFree Energy Gradient - Nudged Elastic Band法にまで応用する予定である。特に、反応座標に対して垂直方向に自由エネルギーグラジエントを射影し、その方向に動的変位を与えることで局所構造から離脱する方法を具体化する。 ここで、自由エネルギー面上のダイナミックスを実行するには、通常のab initio MO計算を多く適用することは時間的にも実用性にかけるので、QM/MM Monte Carloシミュレーションで用いられている高精度ハミルトニアンと低精度ハミルトニアンのDual Hamiltonianでの精度と計算速度の妥当性を検討しなければならないと考えている。 Nudged Elastic Band法の欠点として、継続する反応経路に沿った構造間で変位が大きくなりすぎて反応経路の直線性が維持できなくなった場合に、特に経路の発散につながることが報告されている。この問題については、String法の発展として隣接する構造間で反応座標の直線性が保たれるように、内挿構造を発生させる方法で回避することを検討している。 さらに、アラニンジペプチドの計算について本手法の詳細について知見を整理したのち、実在のタンパク質へ応用して、反応の安定経路の自動最適化を実現していくことを計画している。タンパク質内の加水分解反応を適用例として反応経路の最適化を実現する計画をたてている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の計算機の導入計画がタイの水害により延期せざるを得なくなったため、本年度に購入を延期した。これらの新規計算機の導入に当たっては、DVDドライブなどの不要な付属品を極力減らし、必要最小限の計算に特化したシステムの構築を行うこととした。計算機を自作するにあたり、構成パーツの相性がよくないと、計算速度が十分に引き出せないことがわかっている。そこで、本年度は必要台数を高速なCPUを備えた周辺機器最小限の同一性能で構成し、次年度以降に不足する周辺パーツを取りそろえることで、十分な性能をもつ計算機クラスターを設計することが計画した。以上の経緯により、次年度に使用する予定の研究費が生じた。 具体的な周辺機器としては、外部記憶装置やメモリの充実を図る。さらに、データの安全性を確保するためのRAIDファイルサーバーをそろえる予定である。 データ処理可視化ソフトを導入して、解析に要する時間を節約することと、得られた結果を学会発表と論文を通じて外部に発信する必要があるので、そのための旅費を含む経費として次年度に請求する研究費と合わせて使用する予定である。
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Research Products
(9 results)