2012 Fiscal Year Research-status Report
モンテカルロ計算とNMR計測による脂質ベシクル表面の分子の制限拡散
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23550027
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉井 範行 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (70371599)
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Keywords | 側方拡散 / ベシクル / NMR / 拡散係数 |
Research Abstract |
平成24年度は、ベシクル表面上を側方拡散する脂質分子の運動の解析を行った。 まず、ベシクル表面上で側方拡散する脂質分子の物理モデルを構築した。ベシクルはバルク中を自由に並進拡散および回転拡散する球とし、脂質分子は球の表面上を拡散する質点とするモデル化を行った。球の半径Rは任意に設定できるパラメータとした。球自体の並進拡散係数および回転拡散係数は、Rを用いて流体力学的に取り扱い、ベシクル上での脂質分子の側方拡散係数は、球の表面上における質点の拡散係数に対応させた。この側方拡散係数は任意に設定できるパラメータとして導入した。一方、並行してNMR測定によって得られる実測の拡散係数に対して、上記モデルに基づいた拡散係数の分離を試みた。短い拡散時間ではベシクル自体の拡散距離が短く、これに対して脂質分子の側方拡散による変位は比較的大きいため、側方拡散が支配的となることを検証した。一方、長い拡散時間ではベシクルの並進拡散が支配的になることも実測によって検証した。これにより拡散時間の変化によって、実測される見かけの拡散係数が変化することが明らかとなった。そこでNMRで実測可能なベシクル半径Rと側方拡散係数の組み合わせをあらかじめ構築しておいた上記のモデルを用いて抽出し、適切な半径のベシクルについて実際にPFG NMR測定を行った。脂質分子としてDPPC(ジパルミトイルフォスファチジルコリン)を用いた。NMR測定は連携研究者の岡村恵美子が実施した。モデルを介した解析により得られた脂質分子のベシクル上の側方拡散係数について論文にまとめた。論文は「Colloids and Surfaces」誌にて出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に予定していた課題「ベシクル表面上を側方拡散する脂質分子の運動の解析」の2つの要素である、①ベシクル表面上で側方拡散する脂質分子の物理モデルを構築、および②ベシクルについて実際にPFG NMR測定、いずれについても実施することができ、さらに論文にとりまとめて「Colloids and Surfaces」誌にて下記のとおり出版することができたため。 ・N. Yoshii1, T. Emoto, E. Okamura, Lateral diffusion of lipids separated from rotational and translational diffusion of a fluid large unilamellar vesicle, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 106 (2013) 22–27.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度で行った検討やNMRによる実測を基にして、まずはベシクル表面上の脂質分子の拡散過程のモンテカルロ(MC)計算アルゴリズムを構築する。脂質分子に相当する質点を球の表面上に拘束しつつ運動させるために、新たに次のようなMC計算のアルゴリズムを導入する。 ・質点の位置における球の接平面に沿って、質点を任意の方向に側方拡散係数の大きさに応じて変位させる。 ・球の表面上への拘束を満たすように、動径方向に質点を変位させる。 つぎに、MC計算を実行し、球の表面上に拘束されかつ側方拡散係数に従って運動する質点の軌跡を得る。そして NMR測定のパラメータを設定した上で、質点の軌道を用いてNMRシグナルの予測を行う。MC計算により得られたNMRシグナルとNMR測定から得られたシグナルとの比較により、脂質分子の見かけの拡散係数から純粋な側方拡散係数を分離する。 これらにより得られたMC計算のシミュレーション手法や側方拡散係数に関する知見を取りまとめ、学術雑誌や国内外の学会等で発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、研究遂行に伴う共同研究者との打ち合わせのための旅費、MC計算の実行に伴うデータファイルを保存するためのハードディスクを購入費、成果を公表するために研究成果投稿費、印刷費、および国内外の学会への発表に伴う旅費に充てる予定である。
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