2011 Fiscal Year Research-status Report
分子内及び分子間エネルギー移動を起源とする光機能発現の理論的解明
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23550029
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
石田 干城 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10421950)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 理論化学 / 生体分子 / 金属錯体 |
Research Abstract |
本研究課題の研究代表者は分子間および分子内での電子エネルギー移動の移動過程と移動速度の計算に必要な式の導出について電子状態理論と液体の統計力学の両方の観点から検討を行った。その結果、密度汎関数理論をもとにした方法により溶媒効果まで取り込んだ形で見通し良く導出ができることを見出した。また、平行して分子動力学法の手法を用いてイオン間相互作用とイオン間でのエネルギー移動の特性についての研究を行った。具体的には、実験との共同研究を通してイオン液体中でのイオン間ダイナミックスを追跡した計算結果から、陽または陰イオン同士の間での運動量移動の系全体に占める割合は(陽・陰)異種イオン間でのそれと比べてきわめて小さいことが分かった。そして、これらの結果からイオン液体中でのイオン間相互作用は同種イオン間よりも、主に異種イオン間によるものが大きく、これらの結果からイオン間のエネルギー移動の特性も考察が可能であるということをシミュレーションからも示した。また、これらの結果は、イオン液体中だけではなく、生体分子中や金属錯体中のようなクーロン力が大きな寄与をしていると考えられる系についても応用ができるという視点への展開を可能にした。 さらに、光励起などで生じた(余剰)エネルギーの移動がクーロン力によって制御され、その物性に大きく効くような新規の物質の設計として多価イオンを含むイオン性液体の研究へと発展させた。これらの成果は学術論文として発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに本研究課題にとって重要な分子間および分子内電子エネルギー移動速度を見積もる式の導出とプログラムコード化への取り組みを行ってきているところであり、溶媒効果を含まないケースについてのテスト計算を開始したところである。また、溶媒効果を含めた計算を実行する段階での比較対象となるような溶液中での溶質(色素分子とモデルたんぱく質を選択)内、およびイオン間(イオン液体中)でのエネルギー移動についても分子動力学シミュレーションの方法を用いてすでに開始したところである。以上、研究計画としては、光合成過程(光アンテナ系)に関する計算が準備段階にとどまっているが、エネルギー移動(物質間でのエネルギーのやりとり)という観点からイオン性液体中でのイオン間のエネルギー移動の問題の考察へと展開され、その研究からエネルギー移動過程を解析する新たな手法が確立された。これらは今後の研究へと応用できることが分かり研究の進展に貢献があったと思われるので、現段階での達成度の自己評価の理由とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、実際の計算に関して、光合成反応過程の(光)アンテナ系におけるクロロフィルとバクテリオクロロフィルでのエネルギー移動速度の計算に必要なドナー・アクセプター間相互作用項の計算を行い、また溶媒効果を取りこんだ上での計算についても実行し、エネルギー移動反応における溶媒効果の研究も進める予定である。さらに、金属錯体への適応のために拡張中の方法論の完成とプログラムコード化に取りかかる予定である。金属錯体中のエネルギー移動の研究については特にランタニド金属の電子状態について、実際に溶媒効果を取り入れた上で計算を行う。次に、フェナントロリンを配位子にしたランタニド錯体についての励起配位子中での項間交差過程についても考察を行う。実際の計算としてはスピンー軌道相互作用を考慮した上で計算を行う予定である。また、溶媒効果を取り入れた場合についても計算を行い、励起された配位子からの光増感エネルギー移動過程のに関する解析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実際の計算を行うためのプログラムコードの作成と計算の高速化のためにワークステーションを次年度研究費により導入する予定である。金属錯体への適応のために拡張中の方法論を完成させ、プログラムコード化する段階において、光合成系と金属錯体の系の計算を並行して効率よく遂行するためには複数のCPUを搭載した計算機の使用が不可欠であると考えられる。したがって複数CPUを搭載したワークステーション型計算機の購入に必要な予算に平成24年度の研究費(設備備品費)を充てる予定である。
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Research Products
(4 results)