2011 Fiscal Year Research-status Report
近似の不釣合を避けた電子相関分子間相互作用理論の確立とその応用
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23550031
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Research Institution | Toyota Physical & Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
岩田 末廣 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, その他 (20087505)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松澤 秀則 千葉工業大学, 工学部, 教授 (30260847)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 分子間相互作用 / 量子化学理論 / 基底関数欠損誤差 / 分散相互作用 / 電荷移動相互作用 / 水素結合 / 水素化ホウ素リチウム / 水素貯蔵化合物 |
Research Abstract |
局所射影Hartree-Fock分子軌道(Locally Projected、 LP HF MO)を基底とした摂動論によってハートリーフォック近似内では基底関数欠損誤差(Basis Set Superposition Error, BSSE)を避ける高速計算法を実現した(1電子励起3次摂動, LP MO 3SPT)。これまでは、BSSEを取り除くためにCounterpoise(CP)手順という手間のかかる方法が使われていたが、この理論ではそのような煩雑な手順を使わないため、普通のワークステーションで水の25量体(1075個の基底関数が必要)の相互作用エネルギーもHF近似内ではBSSEなしの計算を実現させた。さらに、ファン・デア・ワールス(分散, Dispersion)項を計算する2電子励起摂動計算を加え、"LP MO 3SPT + Dispersion"近似法を開発した。この場合に対するCP手順の適切性を詳細に検討し、その限界と適用方法を明確にした。LP MOでは、被占軌道・励起軌道ともに各分子に局在しているので、2電子励起摂動展開においてファン・デア・ワールス項に寄与する電子配置だけを取り込む理論を構築できることを示した。この計算法により、水分子クラスター内の水素結合を解析し、分散項が電荷移動項とほぼ同等な重要性を持つことを明らかにすることが出来た。さらに、電子供与受容(Electron-Donor-Acceptor, EDA)錯体においても、分散項が錯体形成の中心的な役割を果たしていることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題は、この十二年間、申請者が進めてきた一連の研究である。LP MO 3SPT法によって、煩雑な手順が必要なCP法を必要とせずに、HF近似内ではBSSEを排除した計算を実現した。さらに、分散項を加えることによって、対結合エネルギーが20kJ/mol程度の系に対しては、高精度ベンチマーク計算に匹敵する信頼性ある研究を実現した。本理論の特徴は、多数の分子からなる大きなクラスターにも適用できることである。その結果として、水11量体の多くの異性体の研究が可能になり、再安定異性体構造を決める因子を解析することが出来るようになった。 開発したプログラムは、並列化を実現していないが、大きな基底関数で問題になる2電子積分の分子軌道変換に工夫を加えた結果、個人所有の小型ワークステーションでも、基底関数の数が数百から千程度も計算を可能にした。 LP MO 3SPT + Dispersion近似法を閉殻系分子クラスターの実用的研究手段とすることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 開発済みのプログラムを使い、応用計算を進める。マルティカノニカルレプリカスィッチング法と結合して、単分子クラスター(例えば、K+(Ne)n,、 Cl-(H2O)nなど)の構造の内部温度依存を研究する。2) 既存のプログラムを、並列化する。もっとも必要とする分散項計算から並列化への修正に取りかかる。3) 開殻分子をふくめクラスター計算を可能にするプログラムを開発する。これには、理論的な問題で、新たに分担者に参加して頂いた藪下教授の協力を仰ぐ。4) LP MOによる摂動法は、論理的に、逐次的に近似を向上できる。BSSEを導入しないで高精度化する理論の構築も図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) 研究成果を広め、共同研究を進めるために、少なくと1年に1回は海外の国際会議に出席する。分担者の共同研究者である博士課程の学生の国内外の学会出席を支援する。2) 活用しているソフトウエア(特に、intel compiler)を常に最新の版にしておく。3) 申請者と二人の分担者(およびその博士課程学生)との共同研究推進のため交流研究会を行う。
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Research Products
(14 results)