2012 Fiscal Year Research-status Report
分子デバイス動作環境下における電子状態変化の直接観測
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23550034
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 浩之 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80300862)
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Keywords | 表面科学 / 分子デバイス / 電子状態 / 電界効果 / 表面界面物性 / 有機薄膜 / 機能性単分子膜 |
Research Abstract |
分子の多彩な性質を利用した電子デバイスが実現した場合、ある種の分子は、数十nmに数Vの電圧が印加されるという強電界下で動作することになると予想される。このとき、分子は強電界によって電子状態を変化させつつも、分子間や電極との間で電荷の授受を行い、機能を発揮しているはずである。本研究の目的は、電極に吸着した分子の電子状態が強電界によってどのように変化するかを、直接的に観測できる新たな手法を立ち上げて解明することにある。 研究では、試料のタイプを分子薄膜と単分子膜の2つに分け、それぞれに適した測定手法を検討してきた。両者は相補的な研究対象であり、実際の分子デバイスに近い前者と電子状態の詳細を見極めることができる後者とに位置づけられる。前者については、軟X線吸収分光(炭素K殻吸収端など)を蛍光収量で計測する手法を導入し、有機薄膜トランジスタが動作する条件下の電子状態測定を進め、スペクトル変化の観測に成功した。一方、後者の単分子膜に関する研究としては、電界放出顕微鏡と光電子分光を組み合わせた手法(光励起電界放出分光)の開発を進めると共に、前者の分子薄膜の結果を踏まえた機能性分子の合成および作製した単分子膜のキャラクタリゼーションを進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行して研究を進めていた分子薄膜試料に関する実験では、既に多くの測定結果を取得し、解析が終わったものから学術誌等に公表している。測定は軟X線吸収分光を基本とし、検出信号として蛍光X線を用いた。このため、測定原理として印加バイアスの影響を受けずに、かつ、薄い金電極(数十nm)なら透過して有機薄膜内部の信号を得ることができた。実際に2電極で挟んだ均一電場にある有機薄膜のX線吸収を測定することができた。また、印加バイアス強度に応じてX線吸収スペクトルが変化する様子を観測することにも成功した。結果の一部は既に学術誌や学会で公表し、今後も解析が終わったものから順次発表を進めていく。 単分子膜試料に関する研究では、申請後の異動に伴う研究環境の変化に合わせ、本課題の後半に予定していた機能性単分子膜の作成を先行し、異動先の研究課題とリンクさせながら実験を進めた。まず、機能分子としてアルカンチオールの末端にオリゴチオフェンが結合する分子を合成し、簡便な浸漬法によって自己組織化的に良好な単分子膜が得られることを確認した。作製した単分子膜のキャラクタリゼーションとして、紫外光電子分光(UPS)と二光子光電子分光(2PPE)を用い、単分子膜中の占有/非占有電子状態が、ほぼデザインどおりの電子構造であることを確認した。また、単分子膜内の分子配向の確認として、赤外反射吸収分光(IRAS)装置の立上げを行った。IRASも原理的に電場の有無に影響されない測定手法であり、従来の振動状態測定にくわえ、将来は電荷注入で生じるギャップ内準位の吸収測定にも期待が持てる。装置は既に立ち上がり、単分子膜の振動スペクトルを測定した。しかし、ベースラインに含まれるノイズが大きく、分子配向の定量的な解析には至らなかったため、今後も改良を進める。一方、本課題で検討してきた光励起電界放出分光の高強度化についても改修を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度も現在の研究室の課題と関連させつつ、分子デバイス動作環境下における電子状態変化の研究を進めていく。既に、分子薄膜試料については、先に進めていた蛍光収量X線光電子分光による測定によって多くの結果を得ているので、解析と論文への取りまとめを進める。一方、単分子膜試料については、先行した機能性単分子膜の作製とキャラクタリゼーション手法の完成を目指す。機能性単分子の合成については、拡張性のある反応経路を確立している。キャラクタリゼーションにおいても、電子状態の観測については、測定条件を出し終えた。よって、残すIRASのノイズ問題を早期に解決する。ノイズの原因としては、赤外分光器のインターフェロメータステージとの連動が確認され、電気(電磁誘導)的な信号が主な要因であることが分かっている。電子回路的なノイズフィルターやセンシティブな部分の電磁シールドで対応が可能であると考えている。くわえて、光励起電界放出分光の高強度化を進め完成を急ぐ。これまで装置は、研究室で不要となった古いバルブやポンプを再利用する形で立ち上げてきたが、ここに来て真空漏れなどのトラブルが発生したこと、また以後も懸念されることから排気系のインターロックの対策を講ずるのに多くの時間を要した。今後は、先に計画した信号処理系の改修に注力し、電子状態分光を行うために十分な信号強度を実現し、強電場にある表面吸着分子の電子状態研究の基礎構築に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の多くは、光励起電界放出分光装置の最適化を行うために充てる予定である。購入を予定していた信号処理用のロックインアンプは、性能がやや劣るものの最低限必要なスペックを有する代替機を入手することができた。よって、研究費は検出器や光学系の改良に積極的に活用する。特に電子状態分光を行うためには、十分な信号強度を確保する必要があるが、用意した10 mWクラスの半導体レーザーで条件を満たさない場合は、研究室にある大出力レーザーの利用も検討する。このため、光学部品の購入には、十分な余裕を持って研究を進める。また、IRAS装置についても、早期にノイズ問題を解決するために必要な処置を施す。進展によっては、現在の赤外光検出器のプリアンプの交換も検討する。さらに、研究成果等の公開のために、学会の参加および論文投稿料などにも予算を充てる予定である。
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Research Products
(4 results)