2012 Fiscal Year Research-status Report
有機導体の非占有軌道の電子状態と非局在性の観測手法の開発
Project/Area Number |
23550037
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
池浦 広美 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 上級主任研究員 (90357319)
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Keywords | 電子状態 / 放射光 / X線吸収分光 / オージェ電子 / 有機導体 / 有機薄膜 / 太陽電池 |
Research Abstract |
有機分子が電気伝導性を示すためには、隣接する分子間を電子が自由に動く必要がある。そのため、分子設計においては分子間での軌道の重なりや電子の動きやすさに関する情報が不可欠である。本課題では、我々が提案した内殻正孔寿命(フェムト秒からアト秒)を利用した伝導電子の動的計測手法を、電荷移動により電子が不足した軌道(HOMO)や非占有軌道(LUMO)などの、他の計測法では観測することが困難な空軌道(伝導帯)の非局在性(電子の動きやすさ)に関する情報を得るとともに、新たな計測手法として確立することを目的とする。 初年度はポリチオフェンや電荷移動錯体などの電子移動の計測を行ったが、ポリチオフェンでは伝導帯上で速い電子移動は観測されなかった。二年目となる今年度は、ポリチオフェンよりも高い伝導性をもつことで知られるポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル) (レジオレギュラー)の計測を行った。これまではバンドが形成されやすい微結晶からなる多結晶粉末の試料で計測を行っていたが、有機分子は異方的な電子輸送特性を持つため分子配向制御が課題の一つとなっている。そこで、今年度は、有機配向膜の作製に加え、放射光の偏光特性を利用した分子配向の評価を開始した。偏光依存性の結果から分子が配向していることは確認できたが、X線の吸収ピーク(非占有軌道)の重なりと、従来受け入れられてきたピークの帰属にも問題点が見つかり、分子配向の詳細な情報を得るためには、新たに解析手法を構築する必要がでてきた。そこで、X線吸収分光法の偏光測定とオージェ電子分光法を組み合わせ、遷移モーメントを利用した3次元解析手法を構築し、πスタックしたキャスト膜の配向評価を行った。ポリヘキシルチオフェンでも微結晶および配向膜共に速い電子移動は観測されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポリチオフェンという有名な分子であるにもかかわらず、伝導帯などの非占有軌道の帰属については曖昧な部分が残されており、配向膜の評価法の構築に当初の予定よりも大幅に時間を割くことになった。そのため、数多くの試料の測定を行うという点においては至らない部分があった。しかしながら、非占有軌道のピーク分離にオージェ電子分光法が有用であることを見いだすなど、計測法の確立に向かっておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
内殻正孔寿命(フェムト秒からアト秒)を利用した伝導電子の動的計測手法を利用して、速い電子移動が観測できる有機分子とできない有機分子が徐々に明らかになってきた。有機導体の電導機構の解明および本手法を新たな計測法として確立するためにはこのような違いが何に起因するかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
託児などの問題があり国際会議での海外出張や遠方の国内出張を控えていたため、旅費に未使用があったが、今年度は国内での国際会議があり、そちらに出席するなど論文投稿や発表関係で使用していく予定である。
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