2011 Fiscal Year Research-status Report
トリアゾリウムカチオンを架橋部にもつ水易溶性人工核酸の創製
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23550041
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤野 智子 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70463768)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | DNA / トリアゾリウムカチオン / アルキル化反応 / 錯形成 / トリアゾール |
Research Abstract |
[具体的内容] 本研究は,遺伝子発現制御への展開を指向した水易溶性人工核酸として,トリアゾリウムカチオンを連結部にもつ人工核酸TLDNA+を開発し,その機能探索を行うものである.本年度はまず,TLDNA+を合成するなかで,その出発原料として用いるTLDNAの合成の効率・量的供給に問題があることに着目し,分子設計の見直しを行った.種々検討の結果,伸長単位の保護基と固相担体へのリンカー部の改変を行うことで長鎖のTLDNAの合成において一段階あたりの平均収率を76%から93%にまで向上させることができた. 続いてTLDNAに対するメチル化反応によりTLDNA+の合成法を開発した.固相合成法を用いた検討では,短鎖のTLDNA+の合成において反応は問題なく進行したが,比較的長鎖の5量体のTLDNA+の合成においては目的生成物が全く得られず,固相担体からの切り出し条件下で分解反応が生じていることがわかった.そこで温和な反応条件である液相合成法を用いたところTLDNA+ 5量体が99%の高効率で得られた.得られたTLDNA+の水への溶解度はメチル化する前と比べて1000倍に向上したことが明らかとなり,主鎖に正電荷を付与することで,水への溶解性を格段に向上させることができた.[意義・重要性] DNAのリン酸ジエステルを中性の骨格に置き換えた人工核酸は医学・生物科学での利用が期待されているが,水への溶解度の低さが不可避の問題であることが知られている.本研究では,中性の人工核酸TLDNAの連結部を一段階の簡便な手法によりトリアゾリウムカチオンへと変換することで,主鎖に正電荷をもつ水易溶性人工核酸を実現することができた.特に原料であるTLDNAの合成法を改良することにより,TLDNA+の高効率かつ量的供給を可能とすることができた.これにより来年度以降の機能探索が迅速に行えるものと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,本研究課題の要となっているTLDNA+の高効率・高選択的かつ簡便な合成法を実現することができた.当初,TLDNA+の合成に加えて錯形成能の評価を予定していたが,研究を遂行するなかで,特に出発原料であるTLDNAの合成法の効率および量的供給に問題があることに着目し,これが今後の機能の展開において大きな妨げとなるとの認識のもと,その問題点の克服を優先して行うこととした.その結果,既存の人工核酸合成を凌駕する高い効率で,かつ簡便な手法による人工核酸合成法を実現することができた.原料であるTLDNAの量的供給が可能となったことで,TLDNA+の量的供給も可能となり,実際,比較的長鎖のTLDNA+ 5量体が数十ミリグラムスケールでの合成をこれまでに行っている.その効率も99%と非常に高く,また精製方法も有機溶媒で洗浄するのみという簡便な操作により行えることから,TLDNA+の合成法を確立できたといってよい.本年度の研究成果により,TLDNA+の迅速かつ量的な供給を可能となったことから,来年度以降,TLDNA+の錯形成能をはじめとした機能の探索を速やかに遂行できるものと考えている.また,本年度得られた知見をもとに,メチル基以外のアルキル基の導入も可能であることが予想され,アルキル置換基の多様化を速やかに行えるものと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,合成したTLDNA+の天然DNA/RNAへの錯形成能の評価を行う.主鎖に正電荷を付与することで,負電荷を帯びた天然DNA/RNAへの結合力が大幅に向上すること見込まれる.この検討では紫外可視吸収スペクトル,CDスペクトルなどの各種スペクトル分析を用いた解析・評価を行う.特に紫外可視吸収を用いた融解温度測定を指標とし,2重鎖,3重鎖の安定性における塩濃度の効果やpHの効果を調べ,その特質を明らかにする. 続いてTLDNA+のアルキル置換基の多様化および塩基配列の多様化によりTLDNA+ライブラリの構築法を開発する.まずTLDNAのアルキル化に用いるハロゲン化合物の多様化により,エチル基,プロピル基,ブチル基などのアルキル置換基の導入法を開発し,天然DNA/RNAとの錯形成におけるアルキル置換基の効果を調べる.次に混合塩基型TLDNA+の合成法を開発し,多様な塩基配列をもつTLDNA+を合成する.申請者らはこれまでにアデニン型・グアニン型・シトシン型ヌクレオシド類縁体の簡便な合成法を確立している.これらのヌクレオシド類縁体を順に連結し,最後にアルキル化することで混合塩基型TLDNA+を合成する.研究後半では,構築したTLDNA+ライブラリと,天然DNA/RNAとの錯形成能を評価し,機能性人工核酸に最適な分子構造の探索を行う.この検討では,Tm測定を指標とした天然核酸に対する結合能力の評価に加えて,ミスマッチ塩基を含む天然DNA/RNAとの錯形成能の評価を行うことでTLDNA+の塩基配列の認識能力の評価を行う.TLDNA+は主鎖に正電荷をもつため,負電荷を帯びた天然核酸との強い静電引力により,塩基配列の認識能力が低下する可能性があるが,TLDNA+の分子構造と天然核酸への錯形成能の相関について明らかにすることで,機能性人工核酸に最適な分子構造を探索する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費に関しては本研究課題の遂行に必要な有機反応試薬類,不活性ガス類の購入のための支出,および消耗品であるガラス器具の補充のための支出を予定している.特に次年度はアルキル化に用いる基質の多様化・核酸塩基の多様化に伴い,反応条件の最適化に多様な試薬を用いたスクリーニングが必要となるため,試薬類への支出の増額が見込まれており,初年度の額より増額して算定している.なお,本研究において,化合物の分離精製・構造解析の装置は揃っており,新たに備品を購入する予定はない.旅費に関しては,国際学会での発表を行う予定であり,成果発表旅費としての支出を予定している.人件費・謝金は,外国論文の校閲への支出を予定しており,その他として,印刷費を使用する予定である.
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Research Products
(11 results)