2012 Fiscal Year Research-status Report
弱い外部刺激によりポルフィリン環の電子状態を可逆的に遠隔調整するシステム開発
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23550046
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
樋口 弘行 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (00165094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 直人 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (90281104)
吉野 惇郎 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 助教 (70553353)
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Keywords | ポルフィリン / 電子構造 / 外部刺激 / 可逆システム / ジアセチレン / スペクトル / 酸 / センサー |
Research Abstract |
低エネルギー近赤外光による外部刺激に敏感に応答する素子は、高度情報化社会生活における多種多様なセンサー機能などの中枢を担う。また,光だけでなく,酸や熱などの微弱な外部刺激に対して電子構造が変化し、これに連動する大きなスペクトル変化を誘起する有機分子は、機能性素子材料開発研究における実質的な主役である。 本研究では、外部刺激受容成分を一次元拡張共役系の末端に導入したポルフィリン誘導体を用いて、近赤外領域の吸収帯を安定かつ可逆的に変換するシステム構築を目指すものである。ポルフィリン環特有の可視領域の強度の大きな Soret 帯(光合成反応の主たる機能性吸収帯)を、酸や金属イオンを引き金とする外部刺激により近赤外領域に移動させ、可視及び近赤外の両領域における吸収帯を可逆変換可能なシステムの設計、構築、制御手法を確立する。 その目的のために,一次元拡張共役系末端に酸や金属イオンの高感度受容成分,電子的刺激の伝達効率を調整するために配向様式の異なるスペーサー、そして機能性成分の三成分をジアセチレン結合によって連結する安定な一次元拡張共役系分子を設計した。分子中の各成分が、距離も構造も明確で剛直かつ電子伝達にも有効なジアセチレン結合で連結されているので、分子の構造―機能相関が容易に解析評価できる。プロトン源や金属イオン源を添加することにより、末端の外部刺激応答成分に加わる刺激がスペーサーを通して約2nm離れた他端の機能性成分であるポルフィリン環へ伝達される効率を定量的に解析する。 その伝達効率を調節制御できるようになると、材料としての機能物性を合目的にコントロールできることになる。従来の型にない機構による可逆的変換システムが完成すると、酸や金属イオンに対する一層の高感度センサー創出に止まらず、光スイッチや高密度メモリーなど一層の省エネルギー型生活支援素子材料の開発研究にも繋がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は,これ迄の成果に基づき,1)新たに6種類の一次元拡張共役系ポルフィリン誘導体を分子設計し合成した。一端にポルフィリン環を,他端に酸検知成分を,その間に電子受け渡しの調節成分であるスペーサーを配し,これら3個の構成成分を共役系に関与することが可能であり剛直なジアセチレン結合により連結した系であり,何れも良好な収率で合成することができた。2)酸の添加により更に長波長領域に新たな吸収帯を与えることを観察するとともにアミン類を用いた中和により元のスペクトルをほぼ100%で再現することを見出しており,本誘導体骨格が安定な可逆システムとして一般化できることを確認した。そして,3)別途平行して推進している関連研究における構造物性相関解析から,類似のジアセチレン連結共役系においてスペーサーとして用いて来たベンゼン環やビチオフェン環をアントラセン環に置き代えることにより,両端の構成成分間の電子的コミュニケーションが顕著に高まることが判明した。そこで,4)酸添加により発現する新たな吸収帯を近赤外領域に一層近づける構造要素について検討を行ない,上記の知見を取り入れた対応するアントラセン誘導体を分子設計して合成し,酸添加に対する予備実験を行なったところ,予想通り,酸への応答感度(電子吸収スペクトルにおける極大値および強度)が著しく向上するという結果を得たところである(投稿論文準備中)。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度末に,関連研究成果からの知見を取り入れて,当該ジアセチレン連結共役系の新たなアントラセン誘導体を分子設計して合成し,酸添加に対する予備実験を行なったところ,酸への応答感度(電子吸収スペクトルにおける極大値および強度)が著しく向上するという結果を得た(投稿論文準備中)。25年度は,この結果をさらに発展させて,1)強度の異なる酸3種(酢酸,トリフルオロ酢酸,四フッ化ホウ酸)をセットにして,1H NMR スペクトルおよび電子吸収スペクトル測定,またサイクリックボルタメトリー法による酸化還元電位測定による基本的な構造物性を評価する。2)本誘導体の酸(トリフルオロ酢酸)への応答感度を取り上げ,他の関連誘導体と比較検討しながら,定量分析を行なう。3)1)および2)の成果に前年度までに見出している酸添加実験における分子設計指針を適用して最終系に仕上げ,ルイス酸(プロトン源や金属イオン源)の添加除去だけで分子吸光係数の大きな吸収帯が可視領域と近赤外領域との間(200nm以上のシフト差)を相互に変換できる安定なシステム構築を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究課題の仕上げの観点から,研究費の使途については,主に当該拡張共役系ポルフィリン誘導体の最終系である安定なシステム構築に必要な試薬,溶媒,ガラス器具及び分離精製用シリカゲル等の購入のための物品費を計上する。構築したシステムの機能評価に種々の精密測定が必要となるが,ほとんどの装置類は研究環境内に整っており自力で収集可能である。一方,得られる研究成果を学会や論文で発表したり,当該研究分野周辺の情報収集も積極的に行なう予定であり,そのための旅費を一部計上する。
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Research Products
(23 results)