2011 Fiscal Year Research-status Report
新規な電子移動制御能を有する三次元分子フォトダイオード素子の創製
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23550051
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
迫 克也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90235234)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 分子素子 / 1分子科学 / 有機電子材料・素子 / 光物性 / 電子・電気材料 / 有機導体 / ナノ材料 / 機能性有機材料 |
Research Abstract |
本研究では、剛直な基本構造(B)にドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)を三次元的に配置した新規な電子移動制御機能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの創製を目的とする。まず母体分子であるD-B(P)-D三元系分子として、ドナーである1,3-dithiol-2-ylidene(DT)又は(2-methylidene-1,3-dithiolo[4,5-d])tetrathiafulvalene(DT-TTF)が直交したシクロファンにπ-電子系ドナーであるグラフェン部分構造のピレン、ヘキサベンゾコロネン(HBC)を構築し、三次元的なπ-電子系を有するHBC-DT及びHBC-DT-TTF直交型シクロファンを合成する。今回、グラフェンの部分構造であるπ-電子系ドナーユニットを導入するための重要な中間体として、DT直交型シクロファン1のベンゼン環に臭素を導入したDT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファン(2a-c, 3)を合成することができた。2a-c, 3は、1に比べて分子内電荷移動吸収帯が20nm以上長波長シフトしていることから、臭素置換基の電子吸引性による影響が示唆された。2a 及び3の電気化学的性質をCVにより測定したところ、二段階の酸化還元波が、2a:+0.37、+0.66V; 3:+0.41、+0.73Vに観測された。分光学的及び電気化学的な測定結果より、微弱ながら電子吸引性基として機能する臭素置換基を導入することによって、DTドナーからシクロファンベンゼン環への分子内電荷移動が制御でき、DT直交型シクロファンへの電子構造修飾が可能であることが示された。また、DT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンの臭素置換基をホルミル基等の他の官能基に変換できたことは、剛直な基本構造であるシクロファン部分に光増感部を導入する上で、合成的に大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由として、合成面からは、合成上重要な鍵中間体とその後の官能基変換が成功したことが挙げられる。具体的には、目的とする剛直な基本構造(B)にドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)を三次元的に配置した新規な電子移動制御機能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの母体分子であるD-B(P)-D三元系分子の鍵中間体であるDT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンが合成できたことである。また、DT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンの臭素置換基をホルミル基等の他の官能基に変換できたことは、剛直な基本構造であるシクロファン部分に光増感部を導入する上で、合成的に大きな成果である。基礎物性の面からは、DT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンでは、分光学的及び電気化学的な測定結果より、微弱ながら電子吸引性基として機能する臭素置換基導入によって、DT直交型シクロファンへの電子構造修飾が可能であることを示した。また、シクロファンベンゼン環への官能基導入により、DTドナーからシクロファンベンゼン環への分子内電子移動の制御が明らかになったことは、剛直な基本構造であるシクロファンに光増感部や異なるドナー部等を導入することにより、三次元的に配置したドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)間に外部刺激による分子内電子移動が発現する可能性を示唆している。このことは、直交した異種のπ-電子系間の相互作用と基礎物性との相関を明らかにする上でも、基礎的な知見として重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に合成法を確立したD-B(P)-D三元系分子の鍵中間体であるDT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンから、臭素の官能基変換により光増感部(P)としてピレン、ペリレン、ヘキサベンゾコロネン等の縮合多環芳香族をシクロファンベンゼン環に導入して、各々を三次元的に配置したD-B(P)-D三元系分子を合成する。次に、光誘起電子移動制御能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの母体分子であるD-A 間の立体的配置を制御したD-B-A三元系分子を合成する。具体的には、アクセプターとしてジシアノエチリデン、ジシアノキノジメタン、又はより強いアクセプター性を示しニトロ基の数によってアクセプター性を調整できるニトロフルオレンと、ドナーとして1,3-ジチオール環(DT)、(2-メチリデン‐1,3‐ジチオロ[4,5‐d])テトラチアフルバレン(DT-TTF)、4-テトラチエニル-1,3-ジチオール環(TTF-DT)を組み込んだD-B-A三元系直交シクロファン分子を合成する。D-B-A三元系分子の合成法及び実験結果に基づき、光増感部(P)としてピレン、ペリレン、ヘキサベンゾコロネン等の縮合多環芳香族をシクロファンベンゼン環に組み込み、ドナー(D)、アクセプター(A)、光増感部(P)を三次元的に配置した光誘起電子移動制御能を有するD-B(P)-A三元系分子を開発する。合成したD-B(P)-D三元系分子及びD-B-A三元系分子において、光誘起によって発生する化学種の安定性を調べるために、低温での測定・短時間測定が可能な分光蛍光光度計、紫外可視分光光度計を用いた測定や電解電子スペクトル測定により、D-B(P)-D三元系分子及びD-B(P)-A三元系における光誘起電子移動の基礎データを収集し、直交した異種のπ-電子系間の相互作用と基礎物性との相関を明らかにし、その妥当性を評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、主に1)母体となるD-B-A三元系分子の合成、並びに2)縮合多環芳香族増感部を組み込んだD-B(P)-A三元系分子の合成、基礎物性及び光誘起電荷分離等の光物性測定のために研究費を使用することになる。当該年度(平成23年度)において、研究の進捗状況にあわせて、1)2)に使用する不安定な薬品(合成試薬)を購入しようとしたが、輸入時期及び購入額(見積額)が決まらず、見積書が作成された時点で発注した場合では、年度内に購入することが困難となったために次年度使用額を生じた。今回、生じた次年度使用額は、平成23年度に輸入できなかった不安定な薬品の購入に使用し、また1)2)の合成法に使用する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)が、消耗品中の薬品・ガラス器具の経費が占める割合も比較的大きいので、平成24年度に購入する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)に合算して使用することを計画している。特に平成23年度に確立された合成法をスケールアップして行うための合成薬品及びガラス器具の購入にも使用する計画である。平成23年度に購入した2)の基礎的な光物性評価及び分子内電荷分離状態の発現過程や寿命の短い不安定ラジカル種を観測するための電気化学システムを、グローブボックスに設置するための消耗品購入を計画している。研究の進捗状況によって多少の変更はあるが、研究成果の学会発表を年に1回から2回程度を、研究打合せ等についても年に1回程度を予定している旅費、研究成果発表のための学術雑誌への投稿料及び校閲料、合成した試料の低温での単結晶X線解析や表面分析(STM等)のための基盤制作費等に使用する予定である。
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