2011 Fiscal Year Research-status Report
芳香族ヘテロ環化合物の特性を活かした動的機能性超分子金属錯体の開発
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23550056
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊藤 芳雄 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00221086)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アニオン認識 / ニコチン酸アミド / 白金錯体 / ビピリジン / ポルフィリン / フラーレン / 電荷移動 / 光化学反応 |
Research Abstract |
ニコチン酸アミド誘導体の白金族イオン錯体を用いたアニオン認識の研究において、芳香族アミンのアミドを新たに導入してそのNH基の酸性度を向上させることにより、アニオンとの会合定数の向上を検討した。その結果、錯体の有機溶媒に対する溶解性の低さのためにDMSOなどの極性溶媒を使用せざるを得なかったが、NMR滴定実験により各種アニオン種の捕捉能を調べたところ、これまでの錯体との違いが会合定数のみならずアニオン種の選択性に見られ、これまでの四面体型アニオンよりも塩化物イオンのような球状アニオンの認識脳が高いことが分かった。アニリドの酸性とともにベンゼン環の平面性が寄与していると考えられるが詳細は今後の検討課題である。 一方、ルテニウムイオンとフラーレンを非共有結合的に連結することを特徴とする、人工光合成の研究では、二つのポルフィリン環を4,4'-ビピリジンの2,6-位に導入した化合物を合成し、ルテニウムイオンとの錯体化に成功した。また、フラーレン(C70)との会合はESI-MSで観測され、その会合定数はNMR滴定により、K = 6030±1280 (M-1)と求められた。本錯体の蛍光寿命および過渡吸収測定を他の研究機関に依頼した。 また、光化学反応における物性変化を研究するために、有機結晶中での色素のフォトクロミズム特性を調べ、加熱溶液の冷却法の違いによりフォトクロミズム特性が異なることを見出し、固溶体法として提案した。 さらに、キラルクレフト構造という4-フェナントリル基による深い切れ込み構造を有するピリジン誘導体の研究も展開した。その結果、ルテニウム錯体の立体選択的合成とその不斉触媒としての有用性、さらには分子機械としての発展性を示す結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は芳香族ヘテロ環金属錯体の特性を活かして新しい機能を見出すことを主目的にしている。アニオン認識に関する研究では予定されていたアニリド誘導体の白金錯体の合成に成功し、その特性がこれまでのものとは大いに異なることを明らかにした点では目的を十分達成している。しかし、依然として本錯体は有機溶媒に対して溶解度が低く、精度の高い測定には至っていない点は今後の課題である。よって、主目的の研究は進んでいるが、そのデータの信頼性を向上させる必要があるので、全体としてはおおむね順調に進展していると評価している。 また、ルテニウムイオンとフラーレンを非共有結合的に連結することを特徴とする、人工光合成の研究では、第一の目的錯体の合成を達成し、その物性測定まで到達しているので予定通りの達成度に至っている。現在行っている物性測定の結果次第で、今後の展開が変わってくると考えられるが、錯体合成の技術的な問題も解決しているので、今後の研究の進展が加速されると期待されている。
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Strategy for Future Research Activity |
ニコチン酸アミド誘導体の白金族イオン錯体を用いたアニオン認識の研究においてはアニリドの興味深い効果が見られたが、有機溶媒に対する溶解度が低く、正確な物性測定が難しかったので、嵩高い置換基などを芳香環に導入して錯体の脂溶性を向上させ、その効果を明確にしていきたい。また、NMR滴定実験による会合定数測定は、今回の錯体に対しては条件設定が難しく、精度が低いなどの問題があるので、錯体の配位子上の置換基にアニオン認識した際に蛍光を発するものを導入し、アニオンの存在を蛍光分析で測定できるような新しいシステムの開発を検討する。 一方、ルテニウムイオンとフラーレンを非共有結合的に連結することを特徴とする人工光合成の研究では、平成23年度に合成した錯体ではフラーレンとの会合定数が少し低かったので、フラーレン捕捉能が高いことが知られているカリックスアレーン、シクロデキストリンなどを導入した錯体の合成を行うことによって推進する。 また、キラルクレフト構造を導入したピリジン錯体の研究では、将来的には螺旋のキラリティーを有する新しいタイプの分子機械の開発へと展開するために、錯体の構造解析を進め、置換基間の相互作用を明確にする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では置換基の異なる様々な化合物を合成してその特性を調べることを中心に進めていく必要があるので、次年度も研究費は主に合成薬品やガラス器具などの消耗品を中心に使用する予定である。また、物性測定および学会発表のための国内旅費にも使用する予定である。物性測定は、既設の装置を利用するほか、外部の研究機関に依頼する予定である。そのための経費も一部含まれる予定である。
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