2011 Fiscal Year Research-status Report
クラウンエーテル型バナデート配位子を有するランタニド錯体の化学
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23550069
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
林 宜仁 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (10231531)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 合成化学 / 分子性固体 / 分子認識 / ポリ酸 / 触媒 化学プロセス |
Research Abstract |
メタバナデートは有機溶媒中でポリリン酸のように四面体型VO4ユニットを基本とする環状構造を形成し、その環員数を増大させると第一系列の遷移金属イオンに対して配位子として働くことができる。その結果生成するクラウンエーテル型のディスク状錯体は、イオン半径の大きなランタニドイオンも錯形成できる可能性がある。そこで、環状バナジウム酸化物配位子をランタニドイオンと反応させることで無機化合物を配位子とする無機錯体の化学の開拓を開始した。 合成は単純に混合するだけでは不溶性の沈殿物を形成してしまい溶媒中に含まれる酸素や水およびアルコールによる錯形成の妨害が観察された。そこで、溶媒,濃度,モル比などの合成条件を検討し無水無酸素条件での合成により無機配位子を有するランタニド錯体の単離に成功した。また、単離された環状バナデートを配位子とする完全無機錯体を結晶化し、Ce, Pr, Pm, Eu, Gd, Tbを除く一連のランタニド元素に関して結晶化に成功した。溶媒を多数含む結晶が生成するため,サンプリングおよび低温測定により最適な結晶を選ぶことに留意して、得られた単結晶をX線構造解析により[Ln(VO3)x]n-型の環状無機配位子を持つクラウンエーテル型錯体であることを確定した。 このような酸化物配位子を持つ無機錯体は、まったくの新規化合物であるため、溶液中での構造は固体構造と同じであるとは限らない。そこで、XAFSにより溶液中での構造の解析を試みる。XAFSの予備測定を立命館大学のSRセンターで行い,測定の最適条件の検討を行った。その結果、溶液中での構造の確定のためには溶解度の増大が必要であり、対イオンの検討や実験条件のさらなる検討が必要であることが判明した。そのため、本測定は来年度以降に延長したが、EXAFS振動パターンが一致するため基本的に溶液構造と固体構造は同一であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
四面体型のVO4を基本単位とする環状バナデート酸化物を配位子とする完全無機錯体を合成し、無機配位子を有する錯体化学を展開できることを新しく発見した。一連のランタニド錯体は、酸化物を分子として切り出したモデル化合物と見なすことができ、中心にヘテロ原子としてランタニドイオンが存在する金属錯体である。合成は順調に成功し、ほとんどのランタニドイオンにおいて結晶化に成功し構造を同定することができた。その結果、当初の目的を果たすための錯体合成は問題なく順調である。得られた全ての錯体についての赤外スペクトル、元素分析、NMRスペクトルの測定など基礎データを収集した。しかし、これらのディスク状構造を持つ完全無機錯体は、まったくの新規錯体であるため、溶液中での構造は固体構造と同一であるとは限らない。そこで、立命館大学SRセンターにおいてXAFS測定を行い、固体および溶液中での構造に関するデータを収集した。しかし、EXAFSの予備測定結果では、錯体濃度の検討と、溶解度の増大が必要であることがわかったため、溶解度を増大する実験条件の再検討が必要となった。また、全てのランタニド錯体において大量合成を行い、十分な濃度の溶液を調整できる様にする必要がある。そのためXAFSの本格的な解析を次年度以降に先送りする必要があった。合成方法は確立しているので十分な時間があればすべてのランタニド錯体に関する固体および溶液状態でのXAFS測定が十分可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
環状バナジウム配位子を有するランタニド錯体の合成法を確立することができたので、今後は大量合成を行う。溶液中での構造を確認するためにXAFSの本測定を順次進めていくが、予備測定の結果、溶液状態での測定にはさらなる溶解度増大が好ましいことが判明した。そのため、十分な量の錯体を合成する必要があるため、出発原料など必要な出発物資を次年度以降に使用する予定とした。すべてのランタニドに関して順に合成反応を遂行し、溶解度をあげるための方法としてテトラブチルアンモニウム塩の添加を行い、無機錯体の溶解度の向上を確認する。また、第一系列の遷移金属元素においてもEXAFSの測定を進めるためにその合成と溶液中での構造の検討のための準備を行い、そのXAFSによる解析を進めるための経費を翌年度以降に請求する予定である。予定しているランタニド酸化物錯体の結晶構造解析などの同定も順調に進行しているので、XAFSの溶解度向上が必要であるという点を除けば計画は順調である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
XAFSの予備測定の結果、固体および溶液EXAFSの測定にはグラム単位の錯体による再測定によりS/Nの良い信号を収集することが必要であることが判明した。そこで、予定を変更し大量合成法の確立のためにランタニド元素の出発物質を次年度に購入し、溶解度の検討のため添加物および必要な試薬の購入を翌度以降に先延ばしした。予備測定でXAFS信号を収集し解析も順調に進行している。第一配位圏と第二配位圏の信号が分離して観察されているので、次年度以降に本測定を行うための試料が準備できれば研究の遂行に支障は無いことを確認している。また、Gd, Tbにおいては、単結晶構造解析において十分な精度を与える結晶を得ることができなかったため、Gd, Tb錯体においてはXAFSによる構造の評価を行う。幸い、Nd-Dyまでの結晶構造はisomorphousであるため、イオン半径の近い構造のランタニド錯体を用いてFEFFによる評価を行うことができるため、精密な結合距離を算出できると考えられる。これらの成果は、第8回バナジウム国際会議(USA)においての招待講演にて発表する予定である。
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