2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23550076
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 元裕 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00212093)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 単一分子磁石 / スピンハミルトニアン / 磁気異方性 / 高対称性分子 / 常磁性多核錯体 / トンネル分裂 |
Research Abstract |
本研究では、極性をもつベクトルである「分子スピン」が、立方対称のような高い対称性をもつ「単一分子磁石」分子にいかに収容されているのかを理解し、その磁気異方性の起源を解明するために、非弾性中性子散乱によって、スピン基底状態と励起状態のエネルギー準位を決定し、分子スピンの磁気異方性プロファイルに関する知見を得ることを最終的な目的とした。平成23年度は具体的に (1) 立方対称単一分子磁石の重水素化体の合成 (2) モデルハミルトニアンに基づくスピン副準位の算出の2点に取り組んだ。 まず、(1)に関しては配位子の合成に成功した一方、目的多核錯体の単離の過程で研究計画からの遅延が発生している。(2)に関しては進行状況はほぼ計画どおりで成果が得られており、スピン副準位をスピンハミルトニアンに基づいてシミュレーションする解析用プログラムを作成しスピン準位の詳細を評価することにより、立方対称をもつ分子磁石の極めて特徴的な挙動を明らかにすることができた。立方対称を満足する4次の磁気異方性スピンハミルトニアンを仮定し数値計算で対角化したところ、スピン多重度の増大にしたがって磁気異方性が正のときには8本、負のときには6本の副準位が擬縮重した基底状態を与え、他の準位との間にはっきりとしたエネルギーギャップをもつことが判った。このエネルギーギャップはスピン量子数の4乗より若干弱い依存性を示した。一方、擬縮重した基底状態は、古典的には異方性エネルギー曲面の等価な極小方向に対応するが、エネルギー障壁の高さが有限であるためトンネル分裂している。トンネル分裂幅はスピン多重度の増大に伴って急速に古典極限に接近していくこと、また磁気異方性が正のときに量子効果がより顕著となることが判った。また、さらに詳細にこのトンネル分裂挙動を見てみると、スピン多重度の変化に伴う周期的なパターンを示していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
立方対称単一分子磁石の重水素化体の合成において、既設の高圧マイクロリアクターを使うことで重水中での水素置換反応による配位子の重水素化に目途をつけることができたが、目的とする立方体型多核錯体の合成にはまだ成功していない。配位子の直接重水素化の試みにおいては、目的とした配位子トリスピラゾリルメタンおよびその誘導体トリスピラゾリルメタンスルホン酸イオンの軽水素体は通常の有機合成法により得ることができたが、軽水素体と重水との反応の際に、水熱条件(250℃, 4 MPa)が厳しすぎて化合物が加水分解し目的物が得られなかった。そこで、配位子原料のピラジンをあらかじめ水熱反応により重水素化し、そののち重クロロホルムとカップリングすることによって配位子を得る方針に切りかえ、ピラジンの重水素化を試みたところ、1段の反応で96%の重水素化に成功した。2回繰り返せば軽水素を0.2%以下に抑えることが可能となり、中性子散乱実験に充分な重水素化率をクリアできる見込みとなった。一方、錯体の合成については、立方体型分子の頂点となる単核錯体の大量合成を行い充分量の化合物を得たが、現在のところ、これを構成要素とする立方体型分子の合成にはまだ至っていない。さらなる合成条件の検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 測定対象試料の合成がやや遅延していることから、この合成条件の最適化にさらに精力的に取り組むほか、ターゲットとなる多核錯体を別種のものに切り替える必要についても検討する。(2) 理論計算によるスピン準位の検討については、数値計算により興味深い結果が得られているので、これを学会発表して多くの磁気化学研究者と議論しフィードバックを得るとともに、数値計算に頼らない解析的な取扱いについても検討を深める。(3) 充分量の重水素化試料が得られれば、当初の予定どおり非弾性中性子散乱実験に取り組み、スピン準位分裂についての情報を得る。これを数値計算の結果と比較することにより、分子スピンの磁気異方性プロファイルに関する知見を得たい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に若干の遅れが生じており、研究費のうち消耗品の執行において当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。とくに現在遅れている試料合成に注力するため、助成を主として合成用化学薬品をはじめとする消耗品に充当する予定である。また、興味深い結果が得られているモデル計算については、第13回分子磁性国際会議(International Conference on Molecule-based Magnets 2012, Orland)において発表を予定していることから、海外旅費の支出を計画している。
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Research Products
(4 results)