2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23550076
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 元裕 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00212093)
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Keywords | 単一分子磁石 / スピンハミルトニアン / 磁気異方性 / 高対称性分子 / 常磁性多核錯体 / トンネル分裂 |
Research Abstract |
本研究では、極性をもつベクトルである「分子スピン」が、立方対称のような高い対称性をもつ「単一分子磁石」分子にいかに収容されているのかを理解し、その磁気異方性の起源を解明するために、非弾性中性子散乱によって、スピン基底状態と励起状態のエネルギー準位を決定し、分子スピンの磁気異方性プロファイルに関する知見を得ることを最終的な目的とした。平成24年度は具体的に (1) 立方対称単一分子磁石の重水素化体の合成 (2) モデルハミルトニアンに基づくスピン副準位の算出 の2点に引き続き取り組んだ。 まず、(1) に関しては配位子の合成が終わった段階で足踏みしており、目的多核錯体の単離の過程に困難を抱えている。(2) に関しては、スピン副準位のスピンハミルトニアンに基づくシミュレーションにおいて、立方対称を満足する4次の磁気異方性スピンハミルトニアンを仮定し数値計算で対角化したところ、スピン多重度の増大にしたがって磁気異方性が正のときには8本、負のときには6本の副準位が擬縮重した基底状態を与え、他の準位との間にはっきりとしたエネルギーギャップをもつこと、擬縮重した基底状態群は、古典的には異方性エネルギー曲面の等価な極小方向に対応するが、エネルギー障壁の高さが有限であるためトンネル分裂していることが判った。詳細にこのトンネル分裂挙動を見てみると、スピン多重度の変化に伴う周期的なパターンを示しており、これがWignerの回転行列を用いて構成した準古典的な基底状態群と関連していることが明らかとなった。これらの結果については、第13回分子磁性国際会議(ICMM2012, Orlando, U.S.A.)において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
立方対称単一分子磁石の重水素化体の合成において、既設の高圧マイクロリアクターを使うことで重水中での水素置換反応による配位子の重水素化に目途をつけることができたが、目的とする立方体型多核錯体の合成にはまだ成功していない。立方体型分子の頂点となる原料単核錯体の大量合成を行い充分量の化合物は得ているが、これを構成要素とする立方体型分子が結晶として得られず、進行状況は計画より遅れた状態に止まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 測定対象試料の合成は遅延しているが、あきらめることなく合成条件の最適化に取り組む。別種のターゲット多核錯体の合成に関しても並列して進める。ただし、こちらについては本助成の研究期間内での完了は期待できないが、現時点ではより実現可能性が高いものと判断している。 (2) スピン準位の理論的検討については、ほぼ当初の目的を完遂するところまでシミュレーションも進み、充分な結果および考察もできているので、論文投稿を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在遅れている試料合成については、ひきつづき結果を得るべく努力を続け、助成金は計画に従い主として合成用化学薬品をはじめとする消耗品に充当する予定である。また、理論的側面については論文投稿を準備するため、英文校閲にも一部を充てたい。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Correlation between Slow Magnetic Relaxation and the Coordination Structures of a Family of Linear Trinuclear Zn(II)–Ln(III)–Zn(II) Complexes (Ln = Tb, Dy, Ho, Er, Tm and Yb)2012
Author(s)
M. Maeda, S. Hino, K. Yamashita, Y. Kataoka, M. Nakano, T. Yamamura, and T. Kajiwara
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Journal Title
Dalton Trans.
Volume: 41
Pages: 13640-13648
DOI
Peer Reviewed
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