2012 Fiscal Year Research-status Report
Non-Innocentな高周期典型元素配位子を機軸とした、協奏的分子変換反応
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23550079
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保 和幸 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90263665)
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Keywords | シクロメタラホスファザン / アンホテリック / Lewis Pair / 小分子活性化 / 協働反応 |
Research Abstract |
平成23年度までに、ソフトな塩基(P)とハードな塩基(N)が交互に連なった特異な環状構造を有するメタラシクロホスファザン(C5Me5)(CO)Fe{P(OMe)2N(Ph)P'(R)N(Ph)P"(OMe)2}-κP,κP" (1)の合成に成功している。この化合物は異なる性質を示す複数の分子内Lewis塩基性サイトと、Lewis酸として働きうる遷移金属フラグメントとをあわせもち、これらが協動的に働いた新規な反応性が期待できる。今年度は、P'RサイトをP'(S)RならびにP'(BH3)Rへ変換した誘導体(2, 3)を合成した。さらに遷移金属フラグメントのLewis酸性の発現を目的に、CO配位子の脱離による金属の配位不飽和化と、それにともなう構造変化や外部基質との反応を検討した。その結果、1に対して紫外光を照射するとCOの脱離が進行し、その空き配位座にP'Rフラグメントが配位した渡環生成物が得られた。この反応をイソシアニド存在下で行うと、先の生成物とともに、イソシアニドが鉄に配位した置換生成物も得られた。このことから中間体として生成する配位不飽和種は、外部基質(イソシアニド)と反応できる程度の寿命を有することがわかった。このことは、この配位不飽和種がLewis Pairとしてアンホテリックな性質を発揮する可能性を示唆する。さらに、2の光反応ではS原子が鉄原子へ転位し、Fe-S-S-Fe架橋構造を有する二核錯体が生成した。また、3の光反応においては、鉄にB-H結合がアゴスティック結合した化合物が得られた。これらの生成物はP'Rフラグメントによる小分子の補足と、その後の遷移金属による活性化という、金属―反応性配位子間での協働反応モデルとしても興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、PNPNP骨格から成るポリホスファザン配位子を有する環状遷移金属錯体を用いて、リン原子のLewis塩基性と中心金属のLewis酸性が同時に作用しうる、アンホテリックなLewis Pairの構築に足がかりをつけた。さらにこのリンフラグメントによる小分子の補足と、その後の遷移金属による活性化という、本研究課題の主題である金属―反応性配位子間での協働反応のモデルとなる興味深い反応を見出すことができた。これらの反応は量論反応であるが、現在触媒反応への拡張を検討中であり、本研究課題の全体的な進行計画に照らしておおむね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.メタラシクロホスファザンの反応性の検討 近年分子内Lewis塩基と遷移金属Lewis酸との協働反応を利用した小分子の活性化が注目を集めている。本年度に合成に成功したBHアゴスティック結合を有する化合物は共有結合活性化モデルとしても興味深く、この活性化されたBH結合を利用して不飽和化合物等の水素化が可能であると期待される。今後は、24年度で得られた知見を基に、外部基質と配位子、遷移金属の同時相互作用を利用した、多重結合化合物の水素化などの協奏型触媒反応の構築を目指す。 2.メタラホスフィノボランの反応性の検討 平成23年度までに合成法を確立しているP=B二重結合を有するメタラホスフィノボランの反応性を検討する。ここではアンホテリックな配位子上での基質の活性化と金属上での物質変換をリンクさせた、新しいコンセプトに基づく協奏反応型触媒の構築を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の予算はおおむね計画通りに執行できたが、研究成果報告のための旅費が不足気味であった。平成25年度は最低限の旅費(200,000円)を確保しつつ、研究必需品や試薬の購入(460,000円)を中心に、24年度に準じた経費使用計画を作成した。平成25年度は実験器具類の購入額は減少傾向にあると思われるが、金属触媒合成用の金属試薬や高純度溶媒等、試薬面での支出の増加が予想される。このような傾向は次年度以降も続くことが予想されるため、今後の研究費を確保するために、よりいっそうの計画的な予算の執行が必要である。
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