2013 Fiscal Year Research-status Report
Non-Innocentな高周期典型元素配位子を機軸とした、協奏的分子変換反応
Project/Area Number |
23550079
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保 和幸 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90263665)
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Keywords | メタラホスフィノボラン / 高周期典型元素 / 活性多重結合 / 結合活性化 / Lewis Pair |
Research Abstract |
平成24年度までに、P=B二重結合性を有するホスフィノボラン配位子を遷移金属に導入した、メタラホスフィノボランの合成に成功している。このような高周期典型元素を含む多重結合は反応性に富み、種々の付加反応や多量化反応を引き起こす。本研究ではこのような活性多重結合の反応性に注目し、配位子と遷移金属が協働的に機能した、分子変換反応を構築することを目指している。平成25年度においては中心金属に鉄ならびにルテニウムを導入したメタラホスフィノボランを合成し、その構造をX線結晶構造解析ならびにDFT計算によって、詳細に検討した。その結果、P-B間結合は多重結合性を反映して短く、さらにPならびにB周りの平面性が非常に高いことがわかった。ここで、鉄体とルテニウム体を比較するとルテニウム体の方がP原子周りがわずかではあるがピラミッド化しており、より塩基性が高いことが示唆された。このことはDFT計算による最適化構造からも支持された。そこで、反応性を調べる目的で不活性小分子である水素分子との反応を検討した。これらのメタラホスフィノボランと水素との反応においては、いずれの錯体も水素分子の活性化反応が進行し、新たなP-H結合を有する化合物の生成がNMRスペクトルから示唆された。これらの水素との反応は鉄錯体よりもルテニウム錯体の方が容易に進行し、この原因は構造解析からも示唆されたようにルテニウム体の塩基性が高ためであると考えられる。以上のような水素分子の活性化反応にはP=B結合の大きな分極によるLewis Pair的な性質が重要であると考えられ、従来の金属への酸化的付加に依らない結合活性化手法として、新らしい遷移金属水素化触媒への応用に期待がもたれる。 また、平成25年度は反応性高周期典型元素間化合物として、P-P間に直接σ結合を有するビスホスフィンと鉄錯体との反応性についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
メタラホスフィノボランと水素分子との反応では、H-H結合活性化反応が進行することを見出した。ここで、遷移金属体の反応性は従来の有機ホスフィノボランの反応性よりも高く、特にルテニウム体の反応は鉄錯体よりも迅速で副生成物も少なく有望である。しかしながら、反応生成物が不安定であるとともに、ホウ素原子の四極子緩和の影響によってNMRスペクトルによる考察が難しく、現在のところ反応生成物の完全な同定に至っていない。本研究ではこれらの反応を触媒反応に応用することを目指しており、そのためにはこの量論反応生成物の同定とその反応機構の解明が必要不可欠である。現在、生成物の単離と構造解析に注力している。 また、前年度に興味深い反応性を見出したメタラシクロホスファザンについても触媒反応に向けたさらなる進展が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
メタラホスフィノボランの反応性の検討 平成25年度で観測された水素分子の活性化反応における生成物を同定し、反応機構に関する考察を行う。それによって得られた知見をもとに、この反応を不飽和有機基質の水素化触媒反応へ展開する。ここでは、ホスフィノボラン配位子上での水素分子の活性化と、金属上への基質の取り込みを伴った、金属―配位子間協働反応を期待している。これを実現するために、遷移金属フラグメントの反応性にも注目し、特に他の配位子の脱離による金属の配位不飽和化とそれによって生じた空き配位座への基質取り込み反応を検討する。具体的には金属上への置換活性配位子の導入や、光や熱による配位子脱離反応を検討する。 メタラシクロホスファザンの反応性の検討 メタラシクロホスファザンは分子内に酸性部位(遷移金属中心)とその近傍に塩基性部位(三価リンフラグメント)を併せ持ち、これらがLewis Pairとして小分子を活性化することが期待される。以前の研究(平成24年度)では、リンフラグメントが金属へ直接配位することによって、Lewis Pairとしての性質が損なわれることが問題となっていた。そこで平成26年度においては、リンフラグメントのLewis塩基性の増大と金属への直接配位を阻害することを期待し、リンフラグメントに電子供与的且つ立体的に嵩高い置換基を導入することを検討する。具体的にはtBu基やTrimethylsilyl基、ならびにこれらの関連置換基の導入を検討する。さらに生成すると期待される分子内Lewis Pairと有機小分子との反応を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は高額な金属試薬や高純度溶媒等、合成試薬において大きな支出が予想されたが、全体として概ね予定予算内に収めることができた。よって次年度使用額は1,715円のみである。 平成25年度までの予算は概ね計画通り執行されており、来年度も予算上の余裕はない。平成26年度も25年度に準じた予算を作成しているが、特に成果発表のための旅費等の不足が懸念される。平成26年度も継続して試薬等に大きな支出が必要であり、最終年度の予算を確保するためにも今後の執行状況を慎重に把握し、計画した年度予算内で研究を遂行する必要がある。
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