2014 Fiscal Year Research-status Report
Non-Innocentな高周期典型元素配位子を機軸とした、協奏的分子変換反応
Project/Area Number |
23550079
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保 和幸 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90263665)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | メタラホスフィノボラン / Lewis pair / 白金錯体 / 分子軌道 / 水素化触媒 / 高周期典型元素 / 分子変換反応 / 協奏反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では高周期典型元素を含む反応性分子を遷移金属の配位子として導入し、金属と配位子それぞれの個性を生かした協奏反応型分子変換反応を構築する。平成25年度までにホスフィノボランを反応性配位子として有する鉄ならびにルテニウム錯体の合成に成功している。ホスフィノボランはLewis塩基であるリン(III)とLewis酸である3配位ホウ素原子が隣接し、これらの協働的な作用によって小分子の不活性結合を開裂することが知られている。平成26年度は遷移金属フラグメントの反応性を高めることを目的に、多彩な反応性を示し数多くの触媒反応が報告されている平面4配位型白金錯体を用いた新規ホスフィノボラン錯体の合成を検討した。支持配位子として2座キレートを有する白金錯体を出発とし、モノ‐ならびにビスホスフィノボラン錯体の合成に成功した。X線構造解析ならびにDFT計算によりそれらの構造やフロンティア軌道に関する考察を行ったところ、いずれの錯体もホスフィノボラン配位子のP=Bπ結合がHOMO軌道に当たることが確認された。特にビス体のHOMO(ならびにHOMO-1)軌道は隣接するホスフィノボランフラグメントの2つのπ軌道からなり、その軌道エネルギーも高いことから特異な反応性が期待された。得られた白金錯体の反応性を調べる目的で、これらを触媒として用いたオレフィンの水素化反応を検討した。その結果、関連する有機ホスフィノボランやモノホスフィノボラン錯体には活性が認められなかったものの、ビス体にはシクロヘキセンの水素化に活性が見られた。ビス錯体の高い塩基性、もしくは近接する2つのホスフィノボラン配位子の協働効果でこの水素化活性が発現している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度までに、鉄ならびにルテニウム-ホスフィノボラン錯体が水素(H2)と反応してH-H結合を切断することが示唆されていたが、反応系が複雑であるために生成物の同定に至っていなかった。そこで本年度は、より高活性な錯体を合成し、その反応生成物の同定と触媒反応への応用が大きな目標であった。そこで、白金-ホスフィノボラン錯体を合成してその水素活性化能を調べた。その結果、錯体と水素のみの反応ではやはり錯体の分解が起こり生成物の同定には至らなかった。しかし、基質としてシクロヘキセンを共存させた場合、ビス体がオレフィンの水素化触媒能を有することが確認された。以上のように、白金-ホスフィノボラン錯体は水素化触媒としての利用に期待がもたれるが、ホウ素の四極子緩和の影響等によりNMR追跡が困難なことから、その活性種に関する知見は得られていない。さらに基質適用範囲の調査や、触媒活性の向上を目指した条件の最適化も今後の課題として残っている。 また、メタラホスフィノボランとともに注目しているメタラシクロホスファザンについては、分子内frustrated Lewis pairの発現をめざして大きな置換基を有する配位子の合成を検討中であるが、合成上の困難から進捗状況が良くない。
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Strategy for Future Research Activity |
メタラホスフィノボランの水素化触媒反応の検討 平成26年度までに見出された白金-ビスホスフィノボラン錯体の水素化触媒反応について、反応条件の最適化と基質適用範囲の検討を行う。また、この水素化反応をオレフィン以外の基質(ケトン等)へと展開する。さらに、ホスフィノボランならびに白金上の置換基(配位子)を検討し、より高活性な触媒を開発する。加えて、反応機構に関する知見を得る目的で、中間状態の補足ならびにDFT計算に基づく理論的考察を検討する。 メタラシクロホスファザンの反応性の検討 メタラシクロホスファザンは分子内に酸性部位(遷移金属)と塩基性部位(リン)が近接し、これらがLewis Pairとして働いて小分子を活性化すると期待している。本研究の大きな課題は如何にして酸性部位と塩基性部位の分子内直接結合を防ぐかにある。これまでに合成した錯体においては、金属―リン間の結合が強いために基質の取り込み反応が進行しなかった。そこで前年度から、立体反発を利用してこれらの会合を防ぐことを目的に、リンならびに金属上に大きな置換基の導入を検討している。今年度はDFT計算等から分子構造を予測し、より精密な分子設計に基づいた合成検討を行う。また、得られた錯体の触媒反応への応用を検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は少額(4,696円)であり次年度の予算執行計画にも大きな影響を及ぼさないため、そのまま繰越とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの支出状況を鑑みて、試薬類や実験必需品等を中心とした物品費(41万円程度)、調査や成果発表に関わる旅費(25万円程度)、その他(4万円程度)の支出を予定している。
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