2012 Fiscal Year Research-status Report
セレノおよびテルロニトロシル錯体の合成法確立と性質の解明
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23550082
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
武藤 雄一郎 東京理科大学, 理学部, 助教 (50453676)
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Keywords | セレノニトロシル / チオニトロシル / チオイソシアナート / 還元的不均化 / モリブデン |
Research Abstract |
NS錯体への変換が達成されているジチオカルバマト配位子を持つMo(VI)錯体[MoN(S2CNEt2)3] (1)を機軸として反応を検討した。 まずCH2Cl2中、1と灰色セレン(10 equiv)を室温で反応させたが、NSe錯体の生成は確認できなかった。次に灰色セレンより反応性が高いと考えられる赤色セレンを用いる反応の検討を行った。還流条件で反応させたところ、黒黄色懸濁液から黒褐色懸濁液に変化した。反応溶液を処理しCH2Cl2/hexaneで再結晶することで橙色結晶を得たが、IR、1H NMR、X線構造解析より、NSe錯体ではなく、NS錯体[Mo(NS)(S2CNEt2)3] (2)が生成したことがわかった。すなわち、反応中に1のジチオカルバマト配位子が分解することによりイオウ源となり、もう一分子のニトリド錯体1と反応したと考えられる。 赤色セレンは二硫化炭素にわずかに可溶であることから、次に二硫化炭素中での反応を検討した。CH2Cl2/CS2中、錯体1と赤色セレンを50 ºCで反応させたころ、イソチオシアナート(NCS)錯体[Mo(NCS)(S2CNEt2)3] (3)とNS錯体2の生成が示唆された。本反応ではまずニトリド配位子とCS2から[(Et2NCS2)3Mo(+)-NCS2(-)]が生成した後、もう一分子の1がSを引き抜くことによって、2と3がそれぞれ形成されたと考えられる。金属錯体によってCS2が還元的不均化で形式的にSとCSを生成する珍しい系である。実際、1とCS2のみの反応を行ない、反応混合物をゲルカラムにより分離することにより、2と3をそれぞれ収率31%、18%で得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高原子価金属のニトリド錯体としてジチオカルバマト配位子を持つモリブデン錯体の反応を検討したところ、ニトリド以外の配位子の分解が起こることがあることや求核性のニトリド配位子は適切ではなさそうであることなど、セレノニトロシル錯体合成のための重要な実験結果が得られた。すなわち、補助配位子はセレン等の反応に対して不活性で、求電子性のニトリド配位子を持つ錯体を用いる必要があることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
MayerらはOs(VI)のニトリド錯体から[TpOs(NSe)Cl2]を合成している。このニトリド配位子は求電子性であるとされており、Ruにおいてはより求電子性の高いニトリド配位子が得られることが報告されている。高原子価ではあるが求核性のニトリド配位子を持つモリブデン錯体では目的のニトリド配位子のセレノ化反応が観察できなかったことから、求電子性のあるニトリド配位子が反応に有利であると考えた。そこで、前年度までの成果を元に高原子価かつ求電子性のあるニトリド配位子とセレン、テルルとの反応を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では酸素および水分に敏感な有機金属化合物を取り扱うため、ガラス製シュレンク管(単価15,000円)を使用する必要があり、消耗品として購入する。その他のフラスコ等のガラス器具購入費用を合わせて、ガラス器具全体の購入費用は400,000円となる。本研究を速やかに推進するためにアルゴンガス・真空ラインを増設する必要があるので、24年度からの繰越分を使ってガラス製ダブルマニホールド(単価200,000円)も消耗品として購入する予定である。 錯体合成用の貴金属塩類として塩化ルテニウム(15,000円/5g)や六塩化オスミウム酸アンモニウム(20,000 円/1 g)購入予定である。当初の計画では使用する予定のなかった塩化オスミウム酸アンモニウムを購入する必要があるため、24年度からの繰越分を充てる。本研究で使用する試薬は、補助配位子の合成原料となる有機および無機試薬、カルコゲン元素、NMR測定用の重溶媒等の購入費用と合わせて、試薬全体の購入費用を640,000円と見積もった。有機金属化合物の合成には高度に脱水された溶媒とアルゴンガスが必須であり、本研究では、それぞれ140,000円、40,000円と見積もった。これら試薬類にも繰越分を合わせて使用する。 研究代表者と連携研究者が国内外の有機金属化学に関する学会、討論会等において本研究の成果を発表すると同時に最新の動向を調査する予定である。そのための旅費を250,000円と見積もった。 以上はすべて本研究に従事する研究代表者、連携研究者ならびに研究協力者が、本研究に直接関係する目的で使用する費用であり、妥当な経費と考える。また、これらの経費は、本研究以外には補助申請がなされていないものであり、必要な経費である。
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Research Products
(12 results)