2011 Fiscal Year Research-status Report
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23550086
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
倉橋 拓也 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (90353432)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 高原子価マンガンオキソ / 酸化反応 / フェノキシラジカル / 混合原子価錯体 / 電子移動 |
Research Abstract |
平成23年度の研究目的は、サレンマンガン錯体からマンガン(IV)オキソ-フェノキシラジカル錯体を合成するルートを確立することである。過去の関連する研究から、目的錯体が等電子構造であるマンガン(V)-オキソ錯体と類似した分光的性質を示し、合成できたかどうかの判断が困難であると予想された。そこで目的錯体の部分構造であるマンガン(III)-フェノキシラジカル錯体について詳細な物性研究を実施した。その結果、このラジカル錯体は一方のフェノレート環にラジカルが局在化したクラスII型の混合原子価錯体であり、フェノレートからフェノキシラジカルへの電子移動に伴う吸収が近赤外領域に観測されることがわかった。この研究成果から、近赤外領域に観測される特徴的な吸収を手がかりにすることで、確実にフェノキシラジカル錯体を同定することが可能になった。この研究成果はすでに学会発表を行うとともに、米国化学会誌に論文を投稿し、受理された。 ラジカル錯体の研究と並行して、マンガン(IV)-オキソ錯体の合成に取り組んだ。当初計画した3つのルートで検討を行ったが非常に困難であることが判明したので、合成計画を変更することにした。新しい計画では、オキソ架橋(酸素原子で架橋された)マンガン(IV)2核錯体を合成して、これを出発錯体に用いて目的のマンガン(IV)オキソ-フェノキシラジカル錯体を合成しようとするものである。オキソ架橋マンガン(IV)2核錯体は加水分解でマンガン(IV)-オキソ錯体に誘導することが可能であると考えられる。また2つの金属イオンに配位結合した架橋オキソ自体も反応性を示すことが期待される。合成ルートの探索を行ったところ、市販されている原料から1ステップでオキソ架橋マンガン(IV)2核錯体に至る簡便な方法を見いだすことに成功し、結晶構造解析を含む様々な物性測定で得られた錯体を完全に同定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェノキシラジカル錯体の合成と同定に関しては、すでに論文発表も完了しており、当初の計画以上に進展している。ところがオキソ錯体の合成に関しては、当初の計画段階では予想できなかった困難があり、合成ルートの変更を余儀なくされた。しかしながら新しく立て直した合成計画は極めて順調に進んでおり、合成計画変更に伴う遅れを完全に取り戻すことができた。 以上より、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に合成したオキソ架橋マンガン(IV)2核錯体を加水分解することにより、単核のマンガン(IV)-オキソ錯体に誘導することを試みる。そして当初の研究計画に沿って、1電子酸化することにより目的錯体であるマンガン(IV)オキソ-フェノキシラジカル錯体の合成を試みる。 これと並行して、2つのマンガン(IV)イオンに架橋したオキソの反応性についても研究を行う。具体的には、オキソ架橋マンガン(IV)2核錯体を1電子酸化してフェノキシラジカル錯体を合成する。そして架橋オキソとフェノキシラジカルの組み合わせで、酸化反応を立体的、電子的に制御することを試みる。単核錯体に加えて2核錯体も検討することで、より高度な反応制御に挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費は、主に金属錯体の合成に必要な試薬やガラス器具等の機材の購入にあてる。また空気や湿気を厳密に排除した条件で反応を行うことも計画しており、そのために必要となるガラス器具等の購入も予定している。
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