2012 Fiscal Year Research-status Report
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23550086
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
倉橋 拓也 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (90353432)
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Keywords | サレンマンガン錯体 / ヨードシルアレーン / エナンチオ選択的エポキシ化 / 電子状態 / 酸化剤付加錯体 |
Research Abstract |
高活性な酸化活性種を合成することを目的に、サレンマンガン(III)錯体を予め1電子酸化して、得られたサレンマンガン(IV)錯体とヨードシルアレーン酸化剤との反応を行った。生成した化学種を吸収スペクトル、NMR、電子スピン共鳴を用いて検討したところ、出発原料のサレンマンガン(IV)錯体とは大きく異なる特徴を示した。エレクトロスプレーイオン化質量分析を用いて分析すると、この化学種はサレンマンガン錯体1分子に2つのヨードシルアレーンが結合した付加錯体であることが判明した。ヨードシルメシチレン付加錯体については、結晶構造解析にも成功した。結晶構造から、マンガン(IV)イオンに結合していた塩素イオンが、ヨードシルメシチレンと反応することでヨウ素原子と結合していることが明らかになった。 ヨードシルアレーン付加錯体は、スルフィドやオレフィンに対して酸化活性を示すことがわかった。オレフィンの酸化反応では、キラルなサレン配位子に起因するエナンチオ選択性が観測された。エナンチオ選択性は、ヨードシルアレーンのアレーン部位のかさ高さに依存する。このことからヨードシルアレーン付加錯体そのものが酸化活性種として基質と直接的に反応していることが示唆された。 一方、錯体の電子状態と触媒活性との相関を検討するために、サレンマンガン(III)錯体とサレン鉄(III)錯体の分光学的性質を詳しく調べた。吸収スペクトル、電子スピン共鳴、磁化率測定により、これらの錯体がそれぞれS=2及びS=5/2の電子状態をとることが判明した。選択的に重水素を導入した錯体を用いて2H NMRスペクトルの比較を行ったところ、わずか1電子の違いが非常に大きなスペクトル的相違を引き起こしていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
実際に酸素原子移動活性を示す化学種を単離、構造決定することによって、活性発現に寄与する分子論的要因を詳しく検討することが可能になった。その結果、従来予想されてきたメカニズムとは異なり、マンガンに配位したヨードシルアレーンのヨウ素原子が、基質であるオレフィンとの反応で重要な役割を果たしていることが示唆された。本研究の主な目的は、マンガン中心から生成する酸化活性種の反応性を精密に制御することであるが、本年度の研究成果はこの目的の達成に向けた最初の大きな一歩になると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヨードシルアレーン付加錯体に関しては、マンガンイオンに配位したヨードシルアレーンの芳香環部位が、エナンチオ選択性発現の阻害要因になっていることが示唆された。そこで立体的により小さな次亜塩素酸イオンの配位した付加錯体を新たに合成する。そして特に酸化活性種の構造とエナンチオ選択性との相関について、詳しく検討する予定にしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、金属錯体の合成に必要な試薬やガラス器具の購入にあてる。また測定結果の解析に必要なソフトウェアの購入も予定している。
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Research Products
(3 results)