2013 Fiscal Year Research-status Report
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23550086
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
倉橋 拓也 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (90353432)
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Keywords | サレンマンガン錯体 / ジオキソ架橋2核錯体 / マンガン(IV) / 酸化触媒反応 |
Research Abstract |
平成24年度において、サレンマンガン(IV)錯体とヨードシルメシチレン酸化剤からヨードシルメシチレン付加錯体が生成して、酸化活性種として機能することを報告した。平成25年度は、この化学種の構造-反応性相関を明らかにするために、メシチレン部位を立体的あるいは電子的性質の異なる他のアレーンに置換した付加錯体を合成した。さらに付加錯体のカウンターアニオンも変化させて、反応活性及び反応選択性に与える影響を精査した。その結果、アレーン部位とカウンターアニオンの性質によって、反応活性や反応選択性が大きな影響を受けることが明らかになった。 一方、サレンマンガン(III)錯体をアルカリ水溶液で処理すると、速やかに2量化反応が進行して、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体が生成することを見いだした。結晶構造解析によると、2つのサレン錯体がM-helicalに重なった特徴的な構造をとる。1H NMRと重水素ラベルしたサンプルの2H NMRを測定したところ、この2量化反応では逆のP-helicalな異性体は全く生成せずに、M-helicalな異性体が選択的に生成したことがわかった。サリシリデン環の置換基を変化させて2量化反応を実施した結果、サリシリデン環の3位置換基の立体障害が、2量化の選択性発現に極めて重要であることを明らかにした。 大変興味深いことに、この2量化の過程で、空気酸化によりマンガン3価中心がマンガン4価へと1電子酸化される。その結果生成するジオキソ架橋2核マンガン4価錯体は、出発のマンガン3価錯体から2電子酸化された状態にあって、これ自身が酸化活性を持つことが期待される。そこでオレフィン、スルフィド、ホスフィンとの反応を検討したが、全く酸化活性は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は新たな化学種として、かさ高いサレンマンガン(III)錯体からジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体を合成、構造決定することができた。理論的には、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体は出発錯体であるマンガン(III)錯体に比べて2電子酸化された状態にあるので、酸化活性を示す可能性がある。ただし今回合成したジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体には、酸化活性が見いだされなかった。酸化活性を発現させる方策については、今後鋭意検討していきたい。 ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体は、構造的には、2つのマンガン(IV)-オキソ錯体がホモカップリングした化学種、あるいはマンガン(V)-オキソ錯体とマンガン(III)錯体がヘテロカップリングした化学種と見なすことができる。したがってジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体は、これら高原子価マンガンオキソ錯体を生成する最終的な前駆体となりうる。本研究は、高原子価マンガンオキソ錯体の反応性を精密に制御することを目指している。ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体の汎用性のある簡便な合成方法の確立は、本研究目標達成に向けて大きく近づいたと考えている。 平成25年度の成果で最も注目しているのは、サレンマンガン(III)錯体を単にアルカリ水溶液で処理するだけで、瞬時に空気酸化が生じてジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体を生成する点である。従来、空気中の酸素分子を酸化剤とする酸化触媒反応が報告されているが、通常、酸化触媒が酸素分子を活性化できる形に還元するための犠牲還元剤を必要とする。今回見いだされたサレンマンガン(III)錯体の空気酸化は、あからさまにマンガン(III)をマンガン(II)に還元する犠牲還元剤を用いていない。将来的に、犠牲還元剤を必要としない空気酸化触媒反応の開発につながるのではないかと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に確立したジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体の簡便な生成方法を活用して、平成26年度はこの化学種の反応性開拓に取り組む。具体的には、大きく三つの方向から検討を加える。一つ目は、サリシリデン環の5位置換基の電子特性を大きく変化させることで、電子的に活性化させることを試みる。二つ目の方策として、サリシリデン環の3位置換基の立体障害を増してマンガンイオン同士が接近することを阻害することで、2つのマンガンイオンに挟まれた酸素原子の反応性向上を試みる。三つ目として、窒素2つ酸素2つの配位環境を持つ4座配位のサレン配位子に代えて、窒素1つ酸素2つからなる3座配位子を用いる。配位原子を減らすことで、マンガン(IV)中心を不安定化させて、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体の反応性向上を目指す。 これら三つのうち、二つ目の検討項目ではマンガンイオン間の距離を可能な限り引き離すことを意図しているので、2量化反応が進行しないことも予想される。この場合には、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体ではなく、単核のマンガン(IV)-オキソ錯体あるいはマンガン(V)-オキソ錯体の生成も期待される。マンガン錯体の精密反応制御の観点から、いずれの化学種が反応活性種として機能しているのかを確実におさえた上で、反応性開拓を進めて行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2014年3月に所属する研究室の移転があったので、予定していた研究機材の購入を延期した。 2014年4月には通常通り研究活動を再開したので、延期していた研究機材を購入して、当初計画通り研究を実施する予定である。
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Research Products
(6 results)