2011 Fiscal Year Research-status Report
高分子電解質のイオン交換体との相互作用の解明と新規検出法の開発
Project/Area Number |
23550093
|
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
湯地 昭夫 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60144193)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 高分子電解質 / イオン交換 / 水晶振動子重みセンサー |
Research Abstract |
陽イオン交換樹脂中における四級アンモニウムイオンの交換反応および金属イオンの水和状態の研究を行い、官能基周りの空隙体積の概念をより確実なものとすることができた。 強塩基性陰イオン交換樹脂(-R+,Br-)上でのジカルボン酸(dc2-)によるイオン交換に関する研究を年度内に完成させ、(-R+,Hdc-)および {(-R+)2,dc2-}に加えて、フマル酸では{(-R+)2,(Hdc-)2}が、高pHでは(-R+,dcNa-)が生成することを見出すとともに、「{(-R+)2,dc2-}の安定性が特定のアルキル鎖長のカルボン酸で極大を示す」という過去の報告が誤りであることを示した。また、(-R+,Hdc-)に対する{(-R+)2,dc2-}の安定性は、スペーサーの炭素数が小さいほど高いことを明らかにした。 一価のカルボン酸のイオン交換平衡を解析し、低交換容量・低架橋度の樹脂では選択係数は交換率に依存せずカルボン酸の炭素数と共に選択性が増加すること、高交換容量・低架橋度の樹脂では選択係数が交換率に依存し選択性はカルボン酸の炭素数に依存しないこと、高交換容量・高架橋度の樹脂では選択係数が著しく交換率に依存し、選択性はかなり低下することを見出した。また、無機イオンの選択係数は、交換されるBr-より選択性が高いイオンでは交換率の増加と共に増加し、低いイオンでは減少することを見出した。 高交換容量・低架橋度の樹脂上でのアクリル酸によるイオン交換は定量的に起こるが、過剰のアクリル酸の一部が中性の酸として分配することを物質収支から明らかにした。強酸性高分子電解質とは対照的に、弱酸性高分子電解質が樹脂表面以外でもイオン交換を起こすのは、このようなプロトンが樹脂内部で移動することによると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
陽イオン交換樹脂に関する研究は既にスタートしていたものであるが、これを完成させて、その内容をAnal. Chem.に掲載した。 また、ジカルボン酸のイオン交換挙動を解明する過程で、プロトン付加したカルボン酸の交換を有利にする要因が明らかになった。これは弱酸性高分子電解質の交換において見出した一部プロトン化した化学種のモデルとして有効であり、この成果は現在、論文投稿中である。 カルボン酸のイオン交換平衡に関しては、直鎖化合物の検討が終了し、炭素鎖と支持母体の間の相互作用が発現する場合と炭素鎖同志の相互作用が発現する場合のあることを明らかにできており、分岐鎖カルボン酸の検討を残すのみのところまで到達している。 高分子電解質のイオン交換も平衡論的な研究がほぼ完了し、分光学などの独立な手法による確認の段階まで達している。
|
Strategy for Future Research Activity |
高分子電解質でイオン交換した樹脂といろいろな酸および塩溶液との反応を物質収支の計測および分光学的手段により検討し、イオン交換あるいは共吸着のいずれが優先して起こるのかを明らかにする。また対イオンとは異なる高分子電解質を共存させることにより、高分子電解質間のイオン交換の可能性について検討する。これまでの成果を踏まえて、高分子電解質濃度の新しい検出法を開発する。検出部としては水晶振動子を用いる重みセンサーを利用することを前提にし、高分子電解質との迅速な相互作用を期待してセンサーをPDOTで被覆して、異なった表面電荷密度のイオン交換薄膜を有する一連の検出部を作成する。PDOTはDOTの電解合成により、水晶振動子上に直接被覆する。この際、膜が厚くなると、膜の粘弾性により水晶振動子の振動数と質量変化量との比例関係が成り立たなくなるため、電解時間等の制御により膜厚を薄くする。まず初めに、通常のイオン交換によって水溶液中での発振周波数がどの程度変化するかを確認する。続いて、より強く相互作用することが期待される高分子電解質によるイオン交換を検討する。pHによって高分子電解質側の電荷密度を変化させることにより、それぞれの電荷密度に最も適した表面電荷したがってpHを明らかにする。高分子電解質との交換により膜全体の粘弾性が高くなり、質量変化量が正しく見積もれなくなる可能性もあるので、水晶振動子のインピーダンス測定を行い、粘弾性変化を表す等価回路の抵抗成分も評価する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に必要な装置は既に完備しており、新たな装置の購入は行わない。一方で、平衡論的な議論を補うための分光学的な研究(EPMA, NMR, MASS)は共同利用の装置で行うため、装置の使用量をかなりの額見込んでいる。実質的にスタートするQCM測定では、消耗品がかなりの金額に達する予定である。成果を発表するために学会への参加を国内外で予定するとともに、公表論文の別刷り代も見込んだ。データがかなりの量となってきたため、必要に応じて研究補助の雇用を行う。前年度の繰越金49,728円および今年度予定額を合わせて、これらの使途に充てる。
|
Research Products
(8 results)