2011 Fiscal Year Research-status Report
油水界面は生体膜のモデル系になり得るか?―電子移動反応場としての類似性と相違点―
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23550095
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大堺 利行 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30183023)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 液液界面 / 自己組織化単分子膜 / 生体膜モデル / 電子移動 / ボルタンメトリー |
Research Abstract |
本研究では「油水界面は生体膜のモデル系になり得るか?」という命題に答えを出すため,生体膜により近いと考えられる自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer; SAM)および油水界面での電子移動反応を比較検討することによって,油水界面と生体膜の類似性と相違点を明らかにすることを試みた。 まず,当該年度(初年度)においては,呼吸鎖電子伝達系に係るシトクロームc(Cyt c)の油水界面での電子移動の反応機構をサイクリックボルタモグラムのデジタルシミュレーションを用いて詳細に検討した。その結果,油相側に加えた電子供与体(ジメチルフェロセン)が水相側に一部分配し,界面の水相側近傍でCyt cと電子移動を行うことが明らかになった。つまり,界面を流れる電流は,界面での不均一電子移動によるのではなく,水相中の均一電子移動によって生じた反応生成物イオンが界面を移動する「イオン移動機構」によることが分かった。この反応機構は生体膜におけるCyt cの挙動に類似しており,油水界面が生体膜のモデル系として有用であることを示した。そして,この成果を論文(Langmuir, 116, p.585 (2012))として公表した。 さらに,ユビキノン(UQ)のSAM修飾金電極上での電子移動反応についても検討した。SAM中に組み込んだUQの還元および再酸化の電流ピークが観察され,それらの電位は正負に大きく分離した。そして,そのピーク電位幅は支持電解質イオンの種類に依存して変化することが分かり,SAM/溶液界面が油水界面と同様に二相界面として機能していることが示唆された。しかし,疎水層の厚みが薄いSAMでは油水界面の場合と異なり,溶液側に加えたredox種との間の電子移動の電流を観察することができた。この結果は,SAMがより生体膜に近いモデルとして有効であることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては,まず,油水界面でのCyt cの電子移動のボルタンメトリー測定によって,油水界面が生体膜モデルとして有用であることを明らかにし,論文として出版した。さらに,SAM修飾金電極を用いるボルタンメトリー測定の手法を確立し,SAM中に組み込んだUQの電子移動のボルタンメトリー波を観察することに成功している。そして,UQの還元と再酸化のピーク電位が正負に大きく分離し,支持電解質イオンの種類によってピーク電位幅が変化することを見出し,SAM/溶液界面が油水界面と同様の二相界面として機能することを示唆する結果を得ている。このように,交付申請書に記載した「研究の目的」に概ね沿った形で,油水界面と生体膜の類似性と相違点を明らかにすることができた。また,SAMが生体膜モデルとして有効であることも分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように初年度において,SAMが生体膜モデルとして有効であることが示された。しかし,SAM修飾電極においては,SAM/溶液界面とSAM/電極界面の二つの界面が存在し,ボルタンメトリー測定においては,これらの界面の電位差の"和"が規制されることになる。したがって,測定によって得られるボルタモグラムの理論的解釈は必ずしも容易ではない。今後は,測定法の変更(たとえばクロノアンペロメトリーの利用)やボルモグラムのデジタルシミュレーション解析などの有効性を検証し,生体膜モデルとしてのSAM修飾電極の理論的な解析法の確立をめざす。 なお,SAM修飾電極上でのredox種の反応機構の解明のため,redox種の水溶液中,有機溶媒中,および油水界面でのボルタンメトリー測定を実施し,SAMの電子移動反応場としての特殊性と,生体膜モデルとしての有効性を理論的立場から明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に交付された研究費は全て予定通り使い切り,次年度使用額は0円である。
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Research Products
(5 results)