2012 Fiscal Year Research-status Report
油水界面は生体膜のモデル系になり得るか?―電子移動反応場としての類似性と相違点―
Project/Area Number |
23550095
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大堺 利行 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30183023)
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Keywords | 液液界面 / 自己組織化単分子膜 / 生体膜モデル / 電子移動 / ボルタンメトリー |
Research Abstract |
本研究では「油水界面は生体膜のモデル系になり得るか?」という命題に答えを出すため,生体膜により近いと考えられる自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer; SAM)および油水界面での電子移動反応を比較検討することによって,油水界面と生体膜の類似性と相違点を明らかにすることを目指している。 初年度においては,呼吸鎖電子伝達系に係るシトクロームcの油水界面での電子移動反応の反応機構をサイクリックボルタモグラムのデジタルシミュレーションに基づいて解明し,油水界面の生体膜モデルとしての有用性を示した。一方,SAM修飾金電極上にユビキノン(UQ)をドープした測定系において,支持電解質を構成する陽イオンの種類を変えたボルタンメトリー測定によって,SAM膜/溶液界面のガルバに電位差がUQの見かけの酸化還元電位に影響することを示唆する実験結果を得た。また予備的実験により,UQは油水界面において油相バルクに加えた場合,明瞭な電子移動波を与えなかったが,疎水層の厚みが分子レベルであるSAM修飾電極においては,水相に加えたレドックス種と界面電子移動を起こし,ボルタンメトリー波を与えることも明らかになっている。 二年目の当該年度においては,初年度に行ったSAM修飾電極での実験結果を,測定に用いるpH緩衝液の濃度などの実験条件を最適化した上で追試を行い,信頼性の高い測定結果を得ることに成功した。初年度に示唆されたSAM膜/溶液界面の重要な役割りを確認し,さらに,疎水層が薄いSAM膜が生体膜に似た電子移動反応の場として有効であることも再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに初年度において,油水界面でのシトクロームcの電子移動に関する研究成果を,学会発表3件および論文[Langmuir, 116, p. 585 (2012)]として発表している。 二年目の当該年度においては,初年度に見出したSAM修飾電極に関する実験結果を,詳細な追試実験を行って再確認することができた。そして,当初の研究計画において予測したとおり,SAM膜/溶液界面の重要な役割りと,SAM膜の厚みが薄いことが生体膜と類似の電子移動反応の実現において重要であることを明らかにすることができた。これらの成果は,2013年5月18日・19日に開催される第73回分析化学討論会(北海道大学函館キャンパス)において学会発表(ポスター)を予定している。また,学術論文の執筆も進めている。 以上のように,本研究計画は当初の目的をおおむね良く達成していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度においては,SAM膜修飾電極に関する研究をさらに進展させる。まず,SAM膜/溶液界面の役割りについては,新たにクロノポテンショメトリー測定を行い,得られる電位-時間曲線を,SAM膜/溶液界面でのイオン分配電位を考慮したデジタルシミュレーションにより理論的に解明する。さらに,SAM膜の厚みの影響については,膜中にドープする酸化還元種をUQ以外のもの(たとえばヘテロポリ酸)に代えることによって,より詳細に調べ,SAM膜を介した電子移動の反応機構を解明する。これによって,SAM膜修飾電極と油水界面の電子移動の反応場としての違いを示すとともに,SAM膜修飾電極の生体膜モデルとしての有用性を明らかにしたい。 なお,上記の研究成果は,数回の学会発表および学術論文として公表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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