2011 Fiscal Year Research-status Report
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23550103
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
西野 智昭 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (80372415)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 走査型トンネル顕微鏡 / 分子探針 / 相互作用 / 電子移動 / 分子エレクトロニクス / DNA |
Research Abstract |
本申請研究では、これまで申請者らが開発してきた分子探針STMをもとに、単分子とそれに近接した単分子との界面における電子移動を測定できる初めての手法を開発することを目的とする。上記の電子移動は、自己組織的に分子を集積化するボトムアップ型分子デバイスに本質的に関与するため、本研究はその実現に大きく貢献するものである。様々な単一分子/単一分子界面での電子伝導を計測し体系的理解につなげるとともに、化学物質の添加などによる電子移動のスイッチングなどの新規現象を探索する。上記の計測手法は、分子エレクトロニクスに限らず、例えばバイオ機能素子の微小化にも有用である。すなわち、生体分子間の分子認識に伴う導電性などの物性変化を単一分子レベルで解明することによって、微小な診断デバイスの創製が可能になる。本申請研究では、応用研究として、DNA二本鎖形成時の電子伝導変化について検討する。DNAの電子物性は多数の研究がなされているものの、単一分子レベルでの導電性等の特性は知られていない点が多い。一方、遺伝子診断に基づく質の高い医療活動(テーラーメード医療)の実現のために、より迅速なDNA解析技術が必要とされている。そのためには、単一DNAレベルでの特性を計測し理解することが欠かすことができない。そこで、本申請研究では、DNA二本鎖が形成される際の動的な電子伝導変化を単一分子レベルでその場計測する。相補、非相補による電子伝導の違いを明らかにすることによって、新規DNA診断デバイスの検出原理として提案する。本原理は、単一分子のシークエンシング技術として注目を集めているナノポアなど次世代DNAシークエンサにおけるDNA塩基配列の識別・検出法として有用なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分子末端にカルボキシ基を有するアルカンチオールをAu製STM探針に修飾することによって分子探針を作製した。また、カルボキシアルカンチオールをAu(111)基板表面に吸着させた。両者の間に生起するトンネル電流を計測することによって、探針、基板表面の分子のカルボキシ基間に形成される水素結合を通じた電子移動を定量的に評価した。その結果、(1)水素結合を介した電子移動が、共有結合を通じた電子輸送よりも高いコンダクタンスを示すこと、(2)ジャンクションの長さが長くなるに従って、水素結合を介した電子移動のコンダクタンスが急激に減少することを単一分子レベルにおいて初めて明らかにした。さらに、同様の計測を金属イオンの存在下にて行い、カルボキシ基と金属イオンとの配位結合を通じた電子移動の評価に成功した。これにより、配位結合の形成によって、水素結合の場合よりもさらにコンダクタンスが上昇することを見出した。これを利用して、分子コンダクタンスを単一金属イオンでスイッチング可能であることを示した。さらに、DNAを修飾した探針によってDNA単一分子の検出を可能とした。3’末端にチオール基を導入した一本鎖DNAを探針、基板に修飾し、上記と同様にI-z計測を行った。その結果、探針、基板上のDNAが互いに相補的な際に大きなコンダクタンスが得られた。これは、両者から形成された二本鎖DNAを通じた電子トンネリングによるものと考えられる。さらに、ミスマッチが存在する場合には、フルマッチの場合と比してコンダクタンスが大きく減少することを見出した。これらの結果によって、分子探針によるDNA単一分子の検出、さらに、単分子レベルにおける一塩基多型のタイピング等の遺伝子診断の可能性が示唆された。以上のように、当該年度の研究計画内容だけでなく、次年度に計画していた研究項目についても着手し、著しい成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
試料および分子探針の末端に様々な官能基・原子団を導入することによって、その組み合わせに応じた多種の分子間相互作用を通じた電子伝導を計測する。水素結合および配位結合についてはすでに明らかとしたので、今後は、電荷移動相互作用等について検討する。相互作用の種類やその強度と単一分子間の電気特性の相関等を詳細に検討し、明らかにする。これまで、これらの非共有結合を介した電子伝導について単分子レベルにおける定量的な知見は得られていない。本申請研究によって、分子間の界面における化学的相互作用がその電子伝導に及ぼす影響について体系的な理解へとつなげ、分子デバイスの創製・設計において不可欠な知見を得る。DNAの単一分子検出については、ミスマッチの検出を可能とした。今後は、メチル化塩基の検出について検討する。ミスマッチやメチル化は、それぞれ病気・薬剤に対する感受性(一塩基多型、SNP)、および腫瘍形成・発癌に関与しているため遺伝子解析が強く求められている。特定のDNA配列を超高感度、すなわちDNA単一分子の検出を、簡便かつ迅速に可能とする新たな手法を開発することを目的とし、革新的な遺伝子診断機器の創製を可能とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の実施のために必要な設備備品はすでに整備されている。そこで、STM下地探針やAu(111)基板の作製のために必要なAu線、粒などの消耗品の購入に研究費を使用する予定である。また、上述の通り、本申請研究は、当初の予定を大幅に超え成果が多数得られているため、種々の学術講演会などにて積極的に成果発表を行うため旅費としても使用する。
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