2012 Fiscal Year Research-status Report
触媒反応での立体選択性の逆転を可能にする第2世代型アニオン性カルベン配位子の創出
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23550128
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
坂口 聡 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50278602)
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Keywords | N-ヘテロサイクリックカルベン / NHC / アゾリウム塩 / 不斉触媒反応 / 配位子 / リガンドデザイン / α-アミノ酸 / β‐アミノアルコール |
Research Abstract |
前年度、本研究課題である第2世代型NHC配位子前駆体となる官能基化されたアゾリウム塩として次の3種類の化合物を合成することができた:①エステルアミド置換アゾリウム塩、②(CH2)2リンカーを有するヒドロキシアミド置換アゾリウム塩、③アルキル置換アゾリウム塩。 本年度は、交付申請書に記載した研究実施計画に従い、銅触媒による不斉共役付加反応を促進させる錯体触媒の創製を目的に、NHC-Cu錯体の合成を試みた。具体的には、配位子前駆体であるアゾリウム塩を酸化銀で処理して、NHC-Ag錯体へ変換後、AgとCu間での配位子交換反応を行いNHC-Cu錯体の合成を検討した。その結果、いずれのアゾリウム塩を用いた場合でもNHC-Ag錯体の生成は認められたが、NHC-Cu錯体を得ることは困難であった。一般に、1価のNHC-Cu錯体合成に関する報告は数多くあるが、本研究のような2価のCu錯体は不安定であることが知られており、今回の場合も同様な理由でNHC-Cu錯体が得られなかったものと思われる。 そこで、本研究の最終目的である銅触媒による不斉共役付加反応を実現させるために、研究実施計画に従って、銅触媒前駆体とアゾリウム塩を組み合わせて、反応系中で錯体触媒を形成させる手法を採用した。その結果、期待通りに反応が生起することを見出した。開発したアゾリウム塩の特徴として、入手容易な天然α-アミノ酸から極めて簡便な方法でNHC配位子前駆体を合成できることが挙げられる。そのため、類似の構造を有する一連の配位子化合物群を迅速に構築でき、触媒反応に応じた不斉配位子のチューニングが容易に行える。そこで、それぞれのアゾリウム塩について、様々な構造をもつ化合物を合成した。それらを利用することで、環状および鎖状エノンのジアルキル亜鉛による不斉共役付加反応が、従来法を凌駕する高い立体選択性で進行することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、過去に報告例のない新規な第2世代型NHC配位子前駆体となるキラルな置換アゾリウム塩を合成し、それを銅触媒不斉共役付加反応におけるキラル配位子として利用することである。研究実績の概要で記述したように、その不安定性のためNHC-Cu錯体を合成することは困難であったが、銅触媒前駆体とキラルなアゾリウム塩を組み合わせた触媒系が効果的に作用することを明らかにすることができた。 特に、アゾリウム塩は天然α‐アミノ酸から極めて簡便に調製可能で、合成した化合物の大半は空気や湿気に安定で、特別な注意を払うことなく容易に取り扱うことができる。チューニング可能な一連のキラル配位子前駆体を構築し、触媒的不斉共役付加反応について検討した結果、反応基質として、環状エノンに限らず、より実現することが困難とされてきた非環状エノンも使用できることを見出した。この成功の鍵は、入手容易なアミノ酸から迅速に合成できるキラル配位子のデザインにあり、今後さらなる展開が期待される。 上記のような理由により、「研究の目的」の達成度について、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒドロキシ-アミド置換アゾリウム塩は、申請者が独自に開発したキラル配位子であり、入手容易な天然α-アミノ酸を利用し、様々な分子構造を有する配位子前駆体を少ない工程で簡便に合成できる。また、その多くは空気中でも安定に存在し、長期間の保存も可能であるという特徴をもつ。このことは、種々の不斉触媒反応に対応可能な、一連のキラル配位子ライブラリーの迅速な構築につながる。今後もこれまで開発してきた置換アゾリウム塩の分子構造に基づき、さらなる機能を付与することで、不斉触媒反応において、より高活性なキラル配位子の設計・開発を行う。具体的には、ビス(NHC)を基本骨格とし、NHCのサイドアームにヒドロキシ-アミド基やヒドロキシ-アルキル基を有するアゾリウム塩の創製などを検討する。 また、不斉触媒反応として、医薬品や香料などの多くの生理活性物質の合成において利用されているCu触媒共役付加反応を中心に検討する。従来リン化合物を鍵とする様々なキラル配位子が開発されてきたが、リン化合物より安定性がよく、その合成も簡便に行えるキラルNHC配位子に関する研究は未開拓である。本研究で開発したキラルNHC配位子は、Cu触媒共役付加反応において、従来から使用されているキラル配位子と比べ、より高活性で、高いエナンチオ選択性を実現できる可能性がある。 さらに、天然α-アミノ酸から誘導したNHC配位子を利用して、Cu触媒前駆体の置換あるいはリガンドデザインによって、共役付加反応における立体選択性を逆転させ、両エナンチオマー生成物をつくりわける手法の開発を行う。さらに将来的には、本ヒドロキシ-アミド官能基化されたNHC配位子が、Cu触媒不斉共役付加反応以外にも様々な基本的な有機化学反応における不斉配位子として適用できるように、万能型のキラル配位子を設計・開発する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(18 results)