2012 Fiscal Year Research-status Report
ピンサー型ニッケル錯体を用いた高機能電解酸化触媒の開発
Project/Area Number |
23550147
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小泉 武昭 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (60322674)
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Keywords | ニッケル錯体 / ピンサー型配位子 / 電気化学 / 電解酸化触媒 / メタノール酸化反応 / 結晶構造 |
Research Abstract |
本研究は、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)の開発において解決すべき最も重要な課題の一つであるメタノールの低電位酸化触媒の開発を行うものである。 平成24年度は、前年度に引き続き種々の置換基を導入したピンサー型ニッケル錯体の合成について検討を行うとともに、得られた錯体の電子化学的性質を明らかにした。ジアルキルアミノ基をアーム部位に持つピンサー型ニッケル錯体は、合成した配位子の精製がやや難しかったものの、達成できた。それぞれの錯体の酸化還元電位をサイクリックボルタンメトリーにより測定を行った結果、Ni(III)/Ni(II)に基づく擬可逆な酸化還元波が+0.3~+0.6 V (vs. Fc+/Fc)に観測された。この際、電子供与性の置換基を導入した場合に低電位側へのシフトが確認できた。これは、これまでに報告されているNi-ピンサー錯体の値と比べて100 mV程度であった。本研究の目的を達成するためには、更なる酸化還元電位の負側へのシフトが必要であると考えられる。一方、第二級チオアミドをアーム部位に有するピンサー型ニッケル錯体において、この錯体が2個有しているN-Hプロトンを塩基によって引き抜いた上で電気化学測定を行ったところ、2段階の酸化還元電位の変化が見られた。これらは、それぞれN-Hプロトンが塩基によって1個および2個引き抜かれた化学種に由来するものであると帰属でき、最大500 mV酸化還元電位がシフトすることがわかった。すなわち、酸-塩基平衡により、中心金属であるニッケルの酸化還元電位を制御できることを示した。この方法を用いれば、置換基の導入よりも効果的に酸化還元電位を負側に設定することが可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、ピンサー型ニッケル錯体の種類を増やすとともに、電気化学的性質に関する系統的なデータの収集を行い、目的の反応に適した酸化還元電位を有する金属錯体を確定した上で、メタノールの電解酸化に対する反応性について検討する予定であった。平成23年度および24年度に合成したピンサー型ニッケル錯体の酸化還元電位をそれぞれ明らかにすることができ、置換基の導入による効果について情報を得ることができた。しかしながら、今回導入した置換基(ピンサー型配位子に対するアルキル基の導入)では、当初考えていたほどの電子的効果は得られないことがわかった。そのため、置換基としてアルコキシ基の導入を試み、ピンサー型配位子の合成について検討を行っているところである。その一方で、第二級チオアミドをアーム部位に持つピンサー型ニッケル錯体において、N-Hプロトンを塩基で引き抜くことにより酸化還元電位を最大500 mVの幅で制御可能であることが明らかになった。したがって、この方法によって金属の酸化還元電位をチューニングし、低電位での酸化反応を触媒しうる金属錯体を創製することを考えている。 以上のように、当初考えていた置換基の導入による金属錯体の酸化還元電位のチューニングがやや困難であることが明らかになってきた。それに代わり、塩基等による外部刺激による酸化還元電位のチューニングによって目的とする酸化還元電位の設定が可能であることが充分に期待できる結果を得ており、その達成度は概ね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25 年度は、これまでの検討によって得られた各錯体のうち、最も金属中心の酸化電位が負側にあるものを選定し、ピンサー型配位子のアーム部位に電解酸化重合が可能なユニットを組み込んだ錯体を合成する。ピンサー型配位子のアーム部位の置換基としては、(2-チエニル)メチルアミノ基や、(2-ピロリル)メチルアミノ基などを導入することを考えている。これらの置換基を導入した配位子の合成を行い、さらにニッケル錯体の合成に成功したら、電解酸化反応のための修飾電極の作成について検討する。 修飾電極の調製は、触媒となる錯体を電極上に酸化重合させることによって行う。これまでの研究で、ピロールおよびチオフェンの電解酸化重合を行うためには、+0.5~+1.5 V程度の印加電圧が必要であると考えられるため、用いる金属錯体の電気化学的性質を鑑みて電位の決定を行う。重合のための電位を決めることができたら、各種電極を用いて電解酸化重合を行い、金属錯体を含むポリマー膜を電極上に作成する。この時に用いる電極としては、白金プレート、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide, ITO)、多孔質グラッシーカーボンなどを用いる。調製した電極の電気化学的性質については、CV、DPV などにより明らかにする。 調製した修飾電極を用いて、バルクでのメタノールの電解酸化を行い、酸化電位および触媒活性を明らかにする。生成物を質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、GC-MS、NMR スペクトルなどにより定性・定量解析することで、反応の全貌を明らかにする。得られた知見により、DMFCの酸化触媒電極としての機能を探り、ユビキタス金属元素を活用した新エネルギー開発の実現を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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