2012 Fiscal Year Research-status Report
単分子吸着膜と鎖状分子により形成される界面不動層の赤外反射分光法による特性解析
Project/Area Number |
23550148
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
久田 研次 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60283165)
|
Keywords | 界面不動層 / 全反射赤外分光法 / 光学増幅 / ネマチック液晶 / チェーイン・マッチング効果 |
Research Abstract |
(1)長鎖アルカン相と接触した単分子膜のATR赤外スペクトル測定 極性末端(カルボキシル基,アミノ基および水酸基)を有するn-アルカンを添加したヘキサデカンならびにテトラデカンの全反射赤外分光(ATR-FTIR)法により得られたスペクトルを解析した.バルク層である流動層からの大きな寄与を統計的に除去する必要があり,ターゲット因子解析による界面情報の抽出を試みたが再現性が低く,測定系を変更することにした. (2)単分子膜と接触したネマチック液晶相の光学増幅 吸着単分子膜によるネマチック液晶層の誘導配向を利用した界面不動層の解析を並行して実施した.1-モノアルカノイル-rac-グリセロール(MAG)ならびにヘキサデカン酸の単分子累積したガラス基板と清浄なガラス基板でサンドウィッチセルを作製した.クロスニコルにした偏光顕微鏡でこの液晶セルを観察すると、累積膜の調製条件によって水面上単分子膜と類似のテクスチャーを観察できるセル作製条件を抽出した. 水面上単分子膜の段階で,アルキル鎖の平均密度を0.143から0.214 nm2/chainの範囲で変えて累積した.この時,親水基のサイズによらず、累積時の平均分子鎖密度が0.21 nm2/chain以下であるとき,4-シアノ-4’-n-ペンチル-ビフェニル(5CB)の誘導配向が観察された.アルキル鎖の断面積を考慮すると,0.21 nm2/chainという鎖密度では、最近接分子鎖間には、他の分子鎖が貫入できるような自由体積はない.そのため、鎖末端の数炭素原子が相互作用した結果として、バルク層内の界面近傍に存在する分子の配向状態を制御していると結論した.潤滑油における鎖状分子の添加効果は鎖長を認識するような相互作用が想定されていたが、それよりも局所的な相互作用が分子あるいはその層構造を制御しているということを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
A)脂肪酸単分子膜と長鎖アルカン流動相および,B)1-モノアルカノイル-rac-グリセロール(MAG)単分子膜とネマチック液晶相という二つの実験系に対して,界面で形成される不動層のキャラクタリゼーションを研究主題に掲げている. 前半の長鎖アルカン流動層との相互作用の評価においては,展望に挙げていた界面不動層のスペクトルを再現性よく得るところまで研究が進展しておらず当初計画よりも遅れている.今後,よりスペクトル解析しやすくするために,軽水素のアルカンと重水素化した添加剤の組み合わせに変更することで,年度内に当初計画の達成を目指す. 一方,後半の実験ではMAGのみならず脂肪酸単分子膜も併せて検討した.親水基のサイズによらず,単分子膜を形成する膜分子の鎖密度が一定の閾値以下となったときに,単分子膜とネマチック液晶相の相互作用によって液晶層の誘導配向している様子が,偏光顕微鏡観察において観察され,アルキル鎖の面密度が吸着層と流動層のアルキル鎖間相互作用を誘発する一つの決定因子であることを明らかにした.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては,比較的順調に進行しているネマチック液晶の光学増幅効果へと研究の主軸をシフトさせる.予備的に検討した結果,単分子吸着膜を形成するアルキル鎖の面密度がある閾値以下のときに液晶層の誘導配向を引き起こすという傾向がみられた.そのため,今年度は単分子吸着膜を形成する膜分子と液晶分子の鎖長ならびに鎖密度が,光学増幅効果ならびに鎖間相互作用に及ぼす効果を偏光顕微鏡観察ならびに分光学的手法により検討していく. 併せて,当初計画にあげていた潤滑剤に近い長鎖アルカンと極性末端基を有する鎖状分子の相互作用の解析においては,これまでともに軽水素の化合物を用いていた.アルカンと添加剤の疎水鎖部分の特性ピークを分離しやすくするために,添加剤に重水素化化合物に変更し,界面吸着層のコンフォメーションや運動性への相対的分子鎖長の影響を明らかにしていく.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)単分子膜構造のネマチック液晶による光学増幅効果に及ぼすアルキル鎖長の影響 室温以上でネマチック液晶を形成する4-シアノ-4’-n-アルキル-ビフェニル(mCB)の中で,室温付近でネマチック相を形成するアルキル炭素数mが3から9までのものを用い,境界摩擦の不動層と同様にチェーン・マッチング効果があるかを明らかにする. 2)光学増幅効果の評価 MAG膜を配向膜とした液晶セルについて,焦点位置を移動させた偏光顕微鏡観察から,単分子膜の配向情報が液晶相に伝搬している距離を評価する.この結果と分光測定の結果を比較し,界面における構造体が液晶の光学増幅に与える影響を定量的に評価する. 3)長鎖アルカン溶液と接触した単分子膜のATR赤外スペクトル測定 前年度までの研究において,n-アルカンおよび添加剤ともに通常のH体を用いた場合には,基油に由来するバックグランドの影響を排除しきれず,解析できなかった.そこで,添加剤をd体に変えて,添加剤の界面濃縮ならびに基油の鎖長による吸着層の運動性をATR-FTIRスペクトルにより評価する.
|
Research Products
(7 results)