2011 Fiscal Year Research-status Report
相補的な塩橋を利用した3次元有機フレームワークの構築と応用
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23550151
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
古荘 義雄 近畿大学, 分子工学研究所, 准教授 (00281270)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アミジン / カルボン酸 / 塩橋 / 二重らせん / オリゴマー / 円二色性スペクトル / 不斉伝播 / 白金錯体 |
Research Abstract |
本年度は、キラルなアミジン及びカルボキシル基を有するm-ターフェニル誘導体を単位構造に持つ共役ポリマーを合成し、それらの有機溶媒中での二重らせん形成挙動について検討した。また、白金アセチリド錯体をリンカーに持つキラル及びアキラルなアミジンからなるアミジンオリゴマーとカルボン酸オリゴマーより、種々の二重鎖オリゴマーを合成し、それらの構造ならびに二重らせん構造を介したキラル伝播(不斉増幅)について検討を行った。 トリエチルホスフィンを配位子として持つ白金(II)アセチリド錯体を用いたヘテロカップリング反応により、キラル及びアキラルなアミジンからなるアミジンオリゴマー及びカルボン酸オリゴマー(2~5量体)を合成した。クロロホルム中でCDスペクトルの測定を行ったところ、アミジンオリゴマー単鎖のみの場合は、白金アセチリドの吸収領域にほとんど誘起CDを示さなかったのに対して、アミジンオリゴマーとカルボン酸オリゴマーからなる二重鎖では、極めて大きな誘起CDが観測され、一方向巻きに偏った相補的二重らせん構造を形成していることが示唆された。キラルアミジンのホモオリゴマー錯体では、オリゴマー鎖長の伸長に伴い、300-400 nm領域のCDスペクトルの反転が見られ、二重らせん構造がオリゴマー鎖長に依存することが分かった。また、末端にキラル部位を有するアミジンオリゴマーからなる二重らせんのCD強度は、鎖長の伸長に伴い対応するキラルアミジンオリゴマー錯体のCDに比べ減少する傾向はあるものの、2、3量体では、ほとんど同程度のCDを示したことから、二重らせんを介した不斉の伝播が起こっていることが示唆された。さらに、キラルアミジン部位を鎖の中心にだけ有するアミジンオリゴマーからなる二重らせんでは、より強いCDが観測され、より効率的な不斉の伝播が起こっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、アミジンとカルボン酸から形成される相補的な塩橋を利用して、有機機能団が原子レベルで精密に配置された3次元ネットワーク(3次元有機フレームワーク)をメタルフリーに構築することを目指している。また、ポルフィリンやフラーレン等の有機機能団を用いて3次元構造体を構築し、光電変換超分子集合体を構築し、光誘起電子移動効率や電荷分離状態の寿命を評価すし、さらに、ドナー・アクセプターの有機フレームワークの提供する特異な内部空間を利用した光触媒の開発を目指している。 本年度は、3次元ネットワークを構築する手法の基礎を固めるため、アミジンとカルボン酸から形成される相補的な塩橋を利用した相補的二重らせん分子の構造特性について詳細な検討を行った。まず、キラル及びアキラルなアミジンからなるアミジンオリゴマーとカルボン酸オリゴマー(2~5量体)を、配列選択的に合成する方法論の開拓に成功した。これらのオリゴマーを溶液中で混合することにより、種々の二重鎖オリゴマーを合成し、それらの構造ならびに二重らせん構造を介したキラル伝播(不斉増幅)について検討を行った。その結果、キラルアミジンとカルボン酸からなる二重鎖は、一方向巻きに偏った相補的二重らせん構造を形成していることが明らかになった。また、キラルなアミジンとアキラルなアミジンからなるオリゴマーとカルボン酸オリゴマーからなる二重鎖においては、二重らせんを介して、非常に効率の良い不斉の伝播が起こっていることを明らかにした。興味深いことに、不斉増幅の度合いはキラルなアミジンユニットとアキラルなアミジンユニットの配列様式によって大きく変化することもわかった。 現時点では、当初の目的である3次元集合体の構築には成功していないものの、そこへ向けた基盤固めという点では着実に進展しており、「(3)やや遅れている」との自己評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、多官能性のアミジンおよびカルボン酸の自己集合による1~3次元超分子集合体の構築を行う。生成する集合体の構造は「モノマー」における官能基の数と相対配置によって一義的に決まる。例えば、対角線上にある二官能性のアミジンとカルボン酸からは一次元の超分子ポリマーが生成する。4官能性のアミジンとカルボン酸からは平面の二次元シート上高分子が生成し、正八面体状の6官能性モノマーと組み合わせることで3次元構造体が得られる。モノマーはテレフタル酸のように単純なものについては市販品が利用できるが、そうでないものについては有機合成的手法で調製する。得られた超分子集合体の構造は、X線構造解析や赤外吸収スペクトル、窒素ガスの吸着実験等により調べる。塩橋はある種の金属錯体の置換活性な金属配位結合と同様の安定性(会合定数)を示すことが分かっているが、3次元ネットワークの創り出す特異なナノ空間を応用するためには、熱的および溶媒等に対する安定性を確保することが絶対必要である。この点については、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、3次元構造体の熱的安定性を調べる。この3次元超分子集合体をきれいに構築するために最も重要な点は、MOFの場合と同様に、速度論的にトラップされてしまった不完全な構造にとどまることを防いで、いかにして系を熱力学的に安定な状態へもって行くかにかかっている。申請者らは塩橋を利用した二重らせんに関する研究の過程で、ある種の溶媒や酸・塩基の使用などにより、この点が克服できることを見いだしている(Y. Furusho et al., JACS, 2008, 130, 7938)。本系においても同様の手法が有効であると考えられるので、溶媒や温度を系統的に変化させて条件を最適化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アミジン基およびカルボキシル基をもつ有機配位子の設計と合成は本研究の基幹をなすものであり、効率の良い合成と迅速な構造確認が生命線である。初年度(平成23年度)では、パーソナル有機合成装置を導入したことにより、有機配位子合成・精製の効率化に成功した。本装置は新規反応や新規触媒の開発、反応条件・反応開始温度、検証実験、最適化実験など、合成プロセスの効率アップのために開発された5連式の有機合成装置であり、従来の「人力」に頼る場合と比べて格段のスピードアップに成功した。本年度は、有機合成反応を主体とする実験のさらなる効率化のために、有機溶媒蒸留装置の導入を行う。本装置のコンデンサーはステンレス製で、減圧下でも十分な強度を持ち、気密性を保持しており、ジクロロメタンのような低沸点の溶媒であっても非常に効率よく有機溶媒を回収できる。有害物質を外に出さないよう実験する必要があることは言うまでもないが、そのために特別の処置を人力で行うにはそれなりに手間のかかる作業であるため、本装置を設置することで実験効率を上げるとともに、環境により配慮して研究を進めて行きたい。 研究計画・方法に記載の通り、多種多様のトポロジカル超分子、高分子の合成および分析には、高価な金属触媒や重溶媒を含む多種多様の薬品類、石英セルを含むガラス器具、理化学機器等の購入が必要であり、これらの購入に必要な経費を消耗品にあてた。 領域内での共同研究を円滑に押し進めるために、研究打合せおよび国内での発表は、それぞれ年間数件程度を予定している。また、論文作成等にかかる費用についても記載の通り計上した。
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Research Products
(9 results)