2012 Fiscal Year Research-status Report
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23550180
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西田 幸次 京都大学, 化学研究所, 准教授 (80189290)
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Keywords | メチルセルロース / ゲル化 / 会合誘起相分離 |
Research Abstract |
代表的な水溶性のセルロース誘導体であるメチルセルロース(MC)は、セルロースの水酸基の一部をメチルエーテル化することでセルロースの分子内や分子間の水素結合の力を弱め、水に可溶化したものである。その水溶液は下部臨界完溶型の挙動を示し、60~70℃付近への加熱により,ゲル化や相分離などの転移現象が協奏的に起こる。しかし、一般的な混合溶液系の相分離現象の場合と異なり、MC水溶液の転移現象は濃度や分子量の変化には大きくは依存しない。そのため、本研究ではMC水溶液に種々の添加塩を加えることで、転移温度を制御することを当初の目的としてきた。この添加塩による制御は、前年度に報告したように一定の成果が得られた。 今年度は、MC水溶液の下部臨界完溶型の挙動の本質を突き止めるべく、動的な観点からの研究を行った。MC水溶液の昇温により生じる相分離やゲルは、冷却により再溶解して透明に戻る熱可逆性を示すので、温度変化に対して比較的平衡状態に近い状態を示すと考えられてきた。しかし、本研究を遂行する過程で、曇点が昇温速度に依存するなど、物性が動的な熱履歴にも左右されることが明らかとなってきた。その主たる原因は、巨視的には透明均一な下部臨界完溶温度よりも十分に低い室温においてすら微視的な会合体を形成し、この会合体が相分離を誘起するという「会合誘起相分離」の機構が働いていることを示唆する実験結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要でふれたように、当初計画ではNaBPh4等の添加塩によりMC水溶液の物性制御を目指し、一定の成果を得た。試料溶液を調整後、実験開始までの保存時間によりその後の相分離挙動に有意の差が生じるという事実を偶然見いだした。 このことを契機として、見かけ上の巨視的一相領域においても何らかの構造が形成しているものと推察し、動的な熱履歴に着目した研究に注力した。
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Strategy for Future Research Activity |
見かけ上の巨視的一相領域においてすら形成しているであろう微視的会合体の構造やその形成のメカニズムを明らかにすべく、静的光散乱に加えて、動的光散乱法による実験を行う。 従来安定一相領域と考えられてきた条件下での時間に依存した構造形成は科学的には大変興味深いが、MC水溶液を生産あるいは利用する産業においては、製品管理上大変不都合な現象であると同時に、新たな物性制御の糸口にもなり得る。まずは、如何なる熱履歴や添加物あるいはMC分子への構造的な修飾をおこなえば、安定な一相領域を保ち得るのかの条件を探索する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度までに大まかな道具立ては揃っているので、上記の方針を遂行するための消耗品である試薬やその精製用の器具に研究費を充てる予定である。また、成果をまとめる年度でもあるので、論文執筆や学会発表等の成果発信にも経費を充当する。
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Research Products
(2 results)