2011 Fiscal Year Research-status Report
抗酸化触媒作用をもつ脂肪族セレン化合物の分子設計と応用
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23550198
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岩岡 道夫 東海大学, 理学部, 教授 (30221097)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | セレン / 抗酸化剤 / アミノ酸 / タンパク質 / フォールディング / 触媒反応 / 不斉合成 |
Research Abstract |
有機セレン化合物は高い酸化還元反応性をもつことから,有機合成化学,薬学,生物化学など,幅広い分野での応用が期待されている。本研究では分子科学の立場から,有機セレン化合物のもつ特異な反応性を生かした新しい含セレン機能性有機分子を創製することを目的として、以下の3つの課題について検討している。課題(1) 抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の新規脂肪族モデルの分子設計.課題(2) 抗脂質ペルオキシ化活性をもつ脂肪族セレン化合物の開発と分子機構の究明.課題(3) 新しい含セレン機能性有機分子の有機合成化学,生物分子科学研究への応用.平成23年度に得られた研究成果は次の通りである。課題(1)において、文献の方法に従いセレノシスティン(Sec)およびα-メチルセレノシスティン(MeSec)の各誘導体を合成した。次に,得られたSec誘導体を用いて,固相ペプチド合成法によって、GPxモデルとなり得るSecを含む各種セレノペプチドの合成を検討した。課題(2) では、各種の水溶性脂肪族環状セレニドの合成を検討した。ヒドロキシ基をもつ5員環のセレニドDHSは文献の方法で合成した。DHSのヒドロキシ基をアミノ基で置換した新規環状セレニドについては合成戦略を策定し、それに従って目的化合物の合成を検討した。続いて,得られたDHSのヒドロキシ基に長鎖アルキル鎖をエステル結合によって導入した。アルキル鎖を1つ導入したものと2つ導入したものの両方を合成し,その抗脂質ペルオキシ化活性を比較した。課題(3)では、課題(1)で合成したα-メチルセレノシスティン(MeSec)誘導体を用いて、触媒的有機合成反応の開発を検討した。また,課題(2)で合成したDHSを酸化して得られたセレノキシド誘導体を用いて,各種タンパク質の酸化的フォールディング実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題(1)において、セレノシスティン(Sec)およびα-メチルセレノシスティン(MeSec)の各誘導体を合成することに成功した。Secを含む各種セレノペプチドの合成については当初計画した4種類のペプチドのうち2種類について合成することができた。しかし、収率が低かったため、重合条件の検討と脱保護条件の検討が今後必要である。課題(2) では、DHSのヒドロキシ基をアミノ基で置換した新規環状セレニドについて、2つのルートで合成を検討した。いづれも最終目的物までには至っていないが、合成中間体を得ることができたので、今後さらに合成を進めていく予定である。DHSのヒドロキシ基に長鎖アルキル鎖をエステル結合によって導入したものについては、炭素原子数が3~18個の誘導体を得ることができた。モノエステル体の抗脂質ペルオキシ化活性を測定したところ、長鎖アルキル基の効果によって高い抗酸化活性が発現することが明らかとなった。一方、ジエステル体では抗酸化活性の発現は見られなかった。課題(3)では、課題(1)で合成したα-メチルセレノシスティン(MeSec)誘導体を用いて、触媒的有機合成反応を開発することに成功した。反応収率が最高でも70%程度であったため、収率向上のための検討が必要である。また,課題(2)において合成したDHSを酸化して得られたセレノキシドを用いて,リゾチームの酸化的フォールディング実験を行った結果、リゾチームの新しいフォールディング経路を明らかにすることに成功した。まとめると、課題(1)については当初計画どおりの達成はできなかったものの、課題(2)と課題(3)については予想を超える研究成果が得られた。以前の研究成果のまとめも合わせて、3件の学術論文、約20件の学会発表(うち2件は海外での招待講演)、1件の英文学術図書の執筆(共著)を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
課題(1)(2)(3)について,平成23年度と同様の検討を継続して行う。化合物の合成(課題(1))では,Sec誘導体の新たな簡易合成法を開拓し、Secを大量に供給する手法を確立する。さらに、Secを含むセレノペプチドの合成手法をSemおよびMeSecに適用し,SemおよびMeSecを含むセレノペプチドの固相合成法についても検討し、これら一連のペプチド分子のGPxモデルとしての機能を探究する。課題(2)では,水溶性環状セレニドおよびその長鎖アルキル誘導体の合成手法を確立する。活性測定では,GPx活性と抗脂質ペルオキシ化活性の測定を継続し,活性中間体の観測を行うことによって、その分子機構を解明する。課題(3)では、α-メチルセレノシスティン誘導体を用いた触媒反応の検討において,光学活性セレノシステイン誘導体を応用することにより、不斉触媒反応への展開を検討する。また、セレノキシドを用いたタンパク質のフォールディングの検討では、2本のペプチド鎖からなるインスリンや、インスリンに構造的に類似したタンパク質であるリラキシン(妊娠ホルモン作用をもつ酵素)のフォールディングについても検討を行う。これによって、新しい含セレン機能性有機分子の有機合成化学,生物分子科学研究への応用を図る。さらに、タンパク質の構造シミュレーションについての研究も展開していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、薬品類の購入費用を抑えることができたため、研究費の一部を平成24年度に繰り越した。平成24年度は平成23年度と同様に、研究費の一部を薬品購入と実験器具類購入のために使用する予定である。また、国内学会及び国際会議(アメリカ化学会8月、招待講演)で研究成果を発表する予定であり、そのための旅費と学会参加費用としても研究費を使用する。新たに研究員を1名雇用して、タンパク質の構造シミュレーション計算についても研究を進める予定である。
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Research Products
(26 results)