2012 Fiscal Year Research-status Report
ヘキサシアノ鉄酸金属塩ナノ粒子の精密合成:混合原子価機能性材料の創成と展開
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23550223
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
柴 史之 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (10312969)
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Keywords | 単分散ナノ粒子 / コアシェル粒子 / プルシアンブルー類似体 / 無機合成 / 液相法 / 還元反応 / 錯体形成 / 外部添加法 |
Research Abstract |
本研究は,金属イオンとヘキサシアノ鉄酸イオンからなる,いわゆるプルシアンブルー類似体ナノ粒子(以下,M-HCFナノ粒子,但しMは金属イオンを表す)の精密合成を目指すものであり,研究2年目の今年度は,以下の観点から研究を行った。 (1) 還元法におけるFe-HCFナノ粒子のサイズ形態制御法の検討:これまでに,クエン酸を還元剤として用いることで,単分散Fe-HCFナノ粒子の合成に成功しているが,多結晶で球形に近い形状であった。クエン酸イオンの吸着による可能性が考えられたため,本年度は他の還元剤を用いることで,単結晶の立方体粒子の合成を目指した。 (2) クエン酸錯体貯蔵法による様々なM-HCF合成の検討:昨年検討したクエン酸錯体貯蔵法による単分散Co-HCFナノ粒子の合成法の一般性を探るため,価数の異なる様々な金属イオン(M=Ag(I),Mn(II),Ni(II),Cu(II),Y(III))を用いて,単分散M-HCFナノ粒子生成の可否を検討した。 (3) 連続添加法による単分散Co-HCFナノ粒子の合成:昨年度に引き続き,反応資源の外部からの連続添加による粒子形成時の過飽和度制御について検討した。特に処方・条件の最適化を行った。 (4) Co-HCFナノ粒子上へのFe-HCFの積層成長:錯体貯蔵法で合成した単分散CoHCFナノ粒子上に,クエン酸還元法によりFe-HCFの積層させることで,コアシェル粒子の合成を行った。Fe-HCFはFe(III)とヘキサシアノ鉄(II)酸で構成されているのに対して,Co-HCFはCo(II)とヘキサシアノ鉄(III)から成っており,金属イオンと,ヘキサシアノ鉄酸中の鉄の価数との関係が逆になっている。この様な状況で制御された積層が可能かどうか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記した研究により,今年度は,以下の様な進展があった。まず,還元法によるFe-HCFの形態制御においては,クエン酸に変えてアミノ酸や還元糖を用いることで,単結晶で立方体の単分散粒子が生成した。良く定義された粒子の合成法確立は,その先の精密合成研究の基盤となる成果である。一方,クエン酸錯体貯蔵法におけるM-HCF以外の粒子合成に関しては,残念ながらM=Co以外の系への適用が困難であることが明確となった。粒子合成過程が,M-クエン酸錯体の安定度定数とM-HCFの溶解度積に依存しており,Co以外では,単分散粒子生成の要件を満たすことが難しいためと考えられる。しかしながら,この過程で得られたM-HCF析出反応の挙動のデータ等は,多成分系を検討する際の重要な知見として,今後の研究に有用ある。 連続添加法においては,添加溶液の組成や濃度等の条件を精査した。中でも,本法の場合は保護コロイド(ゼラチン)を使わなくとも凝集を防止できた。これは応用面を考えると特筆すべき点である。処方自体は錯体貯蔵法を基にしているが,外部添加により,錯体からのCoイオン供給速度を押さえられていることが理由の一つと考えられる。Co-HCF/Fe-HCFコアシェル粒子については,TEM観察によりCo-HCFの元の立方体形状を維持したまま,Fe-HCFの積層に相当するだけサイズが増加し,またEDX分析からFe/Co比も同様に増加したことを確認した。 なお,申請書における研究計画では今年度は多成分系への展開を予定していた。Co-HCF/Fe-HCFのコアシェル粒子合成を行っているが,均一な組成分布の粒子への取り組みまで到達しなかった。よってやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度,平成25年度は本研究課題の最終年度であり,これまで得られた知見を結集し,M-HCFナノ粒子の精密合成法の確立を目指す。特にMが複数の多成分系については,錯体貯蔵法,還元法,外部添加法を適切に組み合わせ,単分散なコアシェル粒子や多層構造粒子,組成分布が均一な多成分系粒子の合成を行う。これまでに単分散ナノ粒子が合成できているCo-HCF,Fe-HCFを組成成分の中心に据えるが,今年度の知見を活かし,これらをベースにCo,Fe以外の成分の導入に関しても積極的に検討を行う。 一方で,単成分系においても,特にCo-HCF, Fe-HCF以外に適用可能な,単分散粒子の新しい合成反応系の提案・検証をしていく予定である。更には,エレクトロクロミズム等,粒子の特性を活かした応用研究についても遂行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては,消耗品費および研究成果発表のための旅費への支出が中心となり,いまのところ設備・備品関しては使用予定はない。消耗品は,具体的には,試薬類および反応用ガラス容器,遠沈管等の試料処理用器具類,および電子顕微鏡観察のための各種用具である。なお,使用している分析機器の修理が必要となった場合は,次年度研究費の一部これにあてることも想定される。
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