2011 Fiscal Year Research-status Report
酸化度の異なる相転移酸化物結晶の成長と電気伝導特性に関する研究
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23560013
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
沖村 邦雄 東海大学, 工学部, 教授 (00194473)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / フランス / アメリカ |
Research Abstract |
平成23年度は酸素流量制御によるサファイア基板上へのV2O3薄膜の成長を推進し酸化度の制御法を確立すると共に,V2O3薄膜の相転移特性を調べ結晶性や化学結合状態との関係を理解することを目的に研究を推進した.微小流量マスフローコントローラの導入によって非常に低い酸化度が実現でき,V2O3組成に加えてV4O7やV5O9といったマグネリ相の成長が見られた.酸化バナジウムにおいて,マグネリ相及びVO2における酸素原子配置はいずれも擬似的六方配置を取ることから,酸素流量や成膜条件の微妙な変化によって酸化度が大きく変化することが判明した.また,スパッタ法によって堆積した薄膜はこれらの異相の相共存状態にあり,この相共存が相転移特性に強く影響することがわかった.得られたV2O3薄膜はサファイア基板との格子整合が良くエピタキシャル成長しているが,基板の拘束によるクランプ効果によってその低温での金属‐絶縁体相転移(MIT)は抑制される結果となった.一方,V4O7マグネリ相薄膜においては250K付近においてMITが発現した. 即ち,本年度の研究を通して,VOに近い組成からV2O5までの幅広い範囲で酸化度の異なるバナジウム酸化膜が堆積できた.しかしながら,作製された薄膜は異相共存状態にある場合が多く,このことがVO2薄膜等のデバイス応用において懸案となっているMIT特性のばらつきといった課題の大きな要因になっていることがわかった.組成制御された薄膜作製が課題として残るが,従来の研究結果を異相共存の知見に基づいて検討することの必要性が明らかとなった. 最後に,今年度の研究を通して,スパッタ成膜時の印加電力増加によってVO2結晶の準低温相である単斜相M2結晶相の成長が得られた.モット絶縁体の性質を有するM2相の成長はVO2のデバイス応用において非常に注目される結晶相である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,スパッタ成膜法を用いて上記のようにV2O3組成に加えてV4O7やV5O9といったマグネリ相を含む広い範囲の酸化度を有するバナジウム酸化膜成長を達成した.酸化バナジウムにおいて,VOからVO2に至る結晶相はマグネリ相も含めて酸素原子配置がいずれも擬似的六方配置であり,この類似性が酸素流量や成膜条件の微妙な変化によって酸化度が大きく変化する要因となることが判明した.更にスパッタ法によって堆積した薄膜はこれらの異相の相共存状態にあり,この相共存が相転移特性に強く影響することがわかった.以上の成果は,本研究課題の主目的である相共存がバナジウム酸化膜の電気伝導性に及ぼす影響を明らかにするする上で非常に重要となる基礎的知見である. 本研究において,今後バナジウム酸化膜を動作層とするデバイスを作製してそのスイッチング特性評価を進めていく上で,動作層の電気伝導性の特性が基礎となることからもおおむね順調に進展していると考えている. また,低酸化度で結晶性に優れる薄膜堆積を実施する中で,VO2の準安定相であるM2相成長が見いだされた.このM2相薄膜は室温大気圧下で安定であり,薄膜堆積時の成長ストレスによって誘起されることが判明した.電子相関効果によって金属‐絶縁体転移を発現するモット絶縁体の性質をより強く有するとされるM2相薄膜が得られたことは,酸化バナジウム薄膜を用いる電子相誘起相転移スイッチングデバイスの開発研究を実施する上で、重要なブレイクスルーになる得る成果である.今後,酸化度の制御と共に,モット絶縁体としてのバナジウム酸化膜の特性解明と応用を進めていく基礎を築くことができたといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は,平成23年度に達成された酸化度の異なるバナジウム酸化膜を作製する技術をベースとして,主にV2O3からVO2に至るバナジウム酸化物結晶相及びそれらの相共存薄膜を作製し,そのミクロ構造を詳細に分析すると共に電気伝導特性を評価することによって酸化度の異なる相共存の影響を調べる.加えて,結晶中や粒界において存在する酸素空孔の効果について調べる.低酸化度の薄膜は,相共存の要因として酸素空孔を有しており,その存在が金属‐絶縁体転移特性を主とする電気伝導特性に強く影響するものと考えられる.酸素空孔の効果は,光照射伝導法を適用してトラップの効果を測定することで検討していく. 並行して酸化バナジウム薄膜を動作層とするプレーナ型及び積層型の2電極デバイスを作製して抵抗スイッチング特性の測定を行う.この際に,動作層として酸化度の異なるVOx層を適用することでスイッチング現象の機構解明へ向けた進展を図る.特に金属電極上へバナジウム酸化層を堆積する積層型デバイスは,スイッチング機構の解明やより実用的なデバイス構造として有力なものと考えられる.金属薄膜上への相転移VO2薄膜の積層成長は金属薄膜の酸化や拡散が生じるためにこれまで報告例が見当たらない.本研究では低温成長を可能とするICP支援スパッタ成膜法を適用することで,金属薄膜上へのバナジウム酸化膜堆積を実現し,積層デバイスによる電圧スイッチングの発現及びその動作機構の解明に取り組む予定である. 大きく分類して,上記の2項目,即ち酸化度の異なるバナジウム酸化膜の電気伝導特性の検討及び金属薄膜上の積層構造デバイスによる電圧スイッチング特性に関する検討を推進していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,上記のように酸化度の異なるバナジウム酸化物の電気伝導特性を調べると共に,電極金属とVO2薄膜との積層膜堆積を行い積層型デバイスとしてスイッチング特性を測定して膜厚方向への電気伝導特性を調べる.これらの研究項目を推進する上で,バナジウム酸化膜堆積において導入する酸素ガス分圧を微小レベルに保ち,且つ残留ガスによる酸化を抑制するために,装置の排気系は重要な役割を果たす.また,成膜時に基板へ入射するガス粒子の種類やエネルギーを分析することが酸化度制御のためにも必要となった.このため,成膜装置に小型のターボ分子ポンプを取り付け,排気速度の増強と質量分析計運転のための差動排気用として利用する.この目的に供するために60l/s程度の排気速度を有する小型ターボ分子ポンプを備品として購入する.また,質量分析計が故障中のためその修理を行う.以上の物品購入等に予算の多くを充当するものである. それ以外は,研究成果の発表用の旅費及び消耗品の購入を予定している.上記のように本研究において多くの成果が出てきており,学会発表以外に論文として纏めていく予定であり,予算の一部を論文公表に充当したいと考えている.
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Research Products
(2 results)