2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23560027
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Research Institution | Ishinomaki Senshu University |
Principal Investigator |
吉原 章 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (40166989)
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Keywords | ブリルアン散乱 / スピン波 / 交換相互作用 / 磁気異方性 / 保持力 / 超常磁性磁気散乱 / Co-Al-O / Fe-Al-O |
Research Abstract |
申請者は25年以上にわたりブリルアン散乱法を駆使して、金属磁性体のスピン波分光研究と交換相互作用定数を中心とする磁気定数の評価を行ってきた。申請者の研究グループは金属/非金属グラニュラー強磁性膜(TM-Al-O:TM=Fe,Co)の磁性と輸送現象の係わりに注目し、低温磁場中での磁気・輸送物性を精力的に研究してきた。 Fe,Co膜共に100K以下の温度領域で電気抵抗の極小が出現し、高温側はTの2乗則に、低温側ではlogT則に従うことを見出した。室温では強磁性スピン波をブリルアン散乱で観測していることから、2乗則は理論的に予想されているスピン波散乱項と解釈できる。スピン波散乱が明瞭な形で観測されたのはこの物質系が最初の例である。 これらの膜の磁化測定を行い、Fe膜の磁化曲線は室温から4.2Kまで殆ど磁化曲線の形状が変化しないのに対し、Co膜では温度低下に伴い磁化曲線が非対称化し、同時に保持力が対数的に振る舞うことを見出した。これらの磁化曲線の温度変化はこれまで報告例がなく、新しい物理現象がこの材料系に内在している可能性が考えられる。加えて、Co-Al-O膜では磁化の温度変化がBloch則に全く従わないことも明らかになった。我々のグループは詳細な研究から、G. Herzerが1990年に提案したrandam anisotropy model を低温で適用できる可能性があり、強磁性Co-Al-Oグラニュラー膜に作用する交換相互作用の振る舞いが新規な磁気現象を理解するためのキーポイントであると結論するに至った。 これらの研究成果を通じて、TM-Al-Oグラニュラー膜における低温ブリルアン散乱の研究目的が明確化すると共に、他の磁性膜についても今後の重要な研究課題として認識された。申請代表者は大震災に付随して発生した多くの困難・問題点を解決して、低温ブリルアン散乱測定を可能にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
大震災で保有していたアルゴンガスレーザーが使用不能に、固体レーザーも発振が不安定になった。平成23年末に英国のメーカーへ修理に出していた固体レーザー(532nm/75mW)が再納入され、各装置の点検が完了し、課題研究の再開が可能になったのは大震災発生から1年以上を経た平成24年4月であった。しかし、その後も頻発する大小の余震による揺れからレーザー共振器内部の精密光学系を保護する必要があると判断し、レーザー装置も空気バネ式除振台に搭載することにした。同時に、ペルチェ素子を用いてレーザーヘッドにも26±0.5 ℃の温度制御を加え、発振状態の長時間安定性を確保することとした。装置改修と平行して、アルゴンレーザーの488nm発振線を固体レーザーに置き換えるべく候補機種の選定を行った結果、昭和オプトロニクス社の空冷式DPSSレーザー(JUNO473nm, J050BS-18-11-11/50mW)一式を備品として新規購入することとした。このレーザーは8月初めには納入されたが、ビーム拡がりが7mradと気体レーザーに比べて約1桁程度大きな値を持つため、収束用光学系を新たに付加する必要があった。 これらの改修作業を全て完了し、各装置が正常に動作することを確認できたのは12月に行ってからであった。この時点で実験を再開できる状況になったが、4年次配属学生3名の卒研指導に時間を取られ、課題研究への対応ができなかった。課題研究を再開したのは平成25年2月後半に入ってからで、分光器・光学系の調整からスタートした。 3月に入り、震災前から低温セルに収められている超常磁性Co-Al-O膜の磁気励起散乱測定から再開したが、以降は比較的順調に実験が進んでいる。JUNO473nmを光源として用いた場合、15Kにおいても、スペクトル積算時間4時間から6時間程度で明瞭なピークを観測することができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
現有装置を用いて、積算時間4~6時間で確実にスペクトルが得られる。計算上は1日1個のスペクトルの測定ができることで、実験スケジュールをほぼ確定できる。 ① 現在、震災前からの課題であった超常磁性Co-Al-O膜の磁気励起散乱測定を進めており、2.0,3.0,4.0,4.5kOeの各磁場で300,250,200,150,100,50,15Kでの測定が既に完了している。この後、1.0kOeの磁場中で温度変化測定を予定しており、7月初旬には超常磁性膜の測定は終了する。超常磁性膜の磁気励起散乱の温度-磁場依存性の研究はこれまで報告されておらず、本研究が最初の例となる。 ② 観測された磁気励起スペクトルは半値幅が広い過減衰状態であるが、高磁場になるとピークの半値幅が狭くなりピーク強度が増大することが分かった。強磁性膜のスピン波ピーク幅は磁気励起ピーク幅より1桁狭いことから、ピーク強度は1桁増大することが期待される。低温での実験も短時間のスペクトル積算で完了するであろう。1日で数個のスペクトル測定ができれば、研究効率は飛躍的に改善される。 ③ 3種類の組成を持つ強磁性試料は平成25年6月末に提供される予定である。試料作製に当たって、低温での熱伝導も考慮して試料基板には単結晶サファイアを用いることとし、サファイア基板を購入する。強磁性試料については、夏休み期間を利用して集中的に実験を行う予定である。東北大で電気抵抗・磁化曲線の測定を行う。 ④ 申請代表者は平成25年度より理工学部長に選出されたため、研究に振り向ける時間をさらに減らさざるを得ない事態となった。研究効率を保持するため、小原紀子博士(お茶の水女子大・理・博士後期課程修了)を実験補助として採用する。装置の取り扱い法から実験法までを教授し、代表者が講義や会議で不在時においても実験を実施できる体制を確保する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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