2011 Fiscal Year Research-status Report
低雑音量子カスケード・レーザと近接場ラマン分光応用に向けた光アンテナ・プローブ
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23560043
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
笠原 健一 立命館大学, 理工学部, 教授 (70367994)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 量子カスケードレーザ |
Research Abstract |
平成23年度は1)DFB構造量子カスケード・レーザ(QCL)の強度雑音、戻り光誘起雑音を測定し、動的条件下における位相・強度雑音の低減に向けての設計指針を求めることと、2)振動遷移増強-近接場ラマン分光用 光アンテナ・プローブ実現に向けて解析を進めることが目的であった。どちらもQCレーザの応用を睨んだ内容である。 前者の目標のうち、戻り光誘起雑音の測定では光結合効率を定量的に見積もり、RINとの対応関係を調べる必要がある。そこで、戻り光量を把握するためにself-Mixing法を用いる方法を考案し、測定を行った。QCLの戻り光耐性は線幅増大係数αが理論的にはゼロとなるために非常に大きいと思われているが、実際にはサブバンドの非線形性等でゼロではなくなる。αと戻り光量による雑音の増加を定量的に調べた報告は従来、皆無であったが、今回、光結合効率の見積もりにSelf-Mixing法を用いる方法を考案した。RINは規格化閾値電流が0.01のとき、30MHzで-128MHzであったが、戻り光による変化は見られなかった。Self-Mixing法によってα=-1.8、光結合効率は>0.4%と見積もられ、αが小さい事と共振器長が大きい事によって比較的大きな戻り光でもQCLの戻り光耐性が大きいことが確認できた。 2)では種々のサイズの光スロット・アンテナを作製し、光電界増強特性を顕微FTIRで測定して基本データを収集した。光電界増強の偏向依存性はFDTDでの解析どうりであったが、Si基板上にAu/Crを形成した構造ではSiの自然酸化膜によるフォノン・ポラリトンも観測できることが分かった。またSi上にALDでAl2O3を数nmつけた基板上にスロット・アンテナも形成してみたがスペクトルはSi基板上とは著しく変化し、光電界の増強が金属近傍に集中し、結果的に表面を敏感に観測可能な事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
QCLの戻り光誘起雑音の大きさはαや光結合効率まで明らかにした状態で定量的に求めることができたが、動的条件下での測定は保留にした。光アンテナ・プローブへの応用では当初はQCLの波長掃引はパルス駆動による熱的な波長チャープで行うことを考えていたが、スペクトル安定性の観点からは外部鏡で行う方式の方が最終的には好ましい。そこで、~nsといった立ち上がりのパルス動作における雑音測定は優先度を下げることにした。 光アンテナではプロセスが若干、難しくなるダイポール・アンテナに先だってスロット・アンテナを作製し、電界増強度を測定した。その分、当初のダイポール・アンテナの検討が少し遅れたことにはなるが、別途、有用な知見は得られた。電波の領域で用いられるスロット・アンテナは矩形状の開口部を有している。それに対して、本研究では中央のフィードギャップ部分にくびれを入れ、開口中心部分の光電界を更に高められるスロット・アンテナを考案した。アンテナの解析は本予算で購入したFDTD計算ソフトで行い、5~10ミクロンといった中赤外域でプラズモン共鳴を引き起こすための設計を行った。次にアンドープSi基板を購入し、光アンテナ作製とその評価を行った。作製では電子ビーム描画やリフト・オフ法を用いて行い、フィードギャップ幅が最小0.1ミクロンのものを実現することができた。アンテナ寸法は変えてあり、顕微FTIRによる反射や透過スペクトルから共鳴波長がどのように動くか、また共鳴幅はどのくらいになるか把握することができた。中赤外の光アンテナで電界増強を実際に確認した報告例は少ない。研究ではSi表面に形成された自然酸化膜に起因するフォノン・ポラリトン信号をとらえることができ、また原子層オーダでAl2O3をつけた表面ではそれが見えなくなるなど、光アンテナの垂直方向の感度の敏感性を初めて確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
光アンテナ・プローブの1次試作をNIMSの協力を得て行い、課題の洗い出しを進める。作製は通常のAFMのカンチ・レバーに倣って行う。すなわちSi(100)面上に熱酸化法でSiO2を成膜し、パターニングと異方性エッチングを使ってNλ/4の長さで先端を尖らせた光アンテナ・プローブ作製し、その表面にAgをコーティングする。またQCレーザからの出射光を光アンンテナに照射し、振動遷移増強によるラマン光増幅の予備実験を行っていく。ラマン線は一般的に偏光しており、偏光度はラマン線によって異なる。QCレーザからの偏光方向を回転して変え、ラマン光強度との関係を測定する。 光アンテナ・プローブのプロセスについては検討は既に進めているが、実際の段では色々な課題が発生することが懸念される。そのために次善の策も用意しておく予定である。すなわちプロセス上の課題等が生じて遅れるようであれば表面増強赤外吸収分光(SEIRA)に光アンテナの方向を展開させる。本アイディアはSEIRAに対しても有効なはずである。H23年度に光スロット・アンテナで得られた知見を基に表面に敏感な検出手法を開発することも視野に入れておくようにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
光アンテナの改良試作や光アンテナ・プローブの1次試作をNIMSの協力を得て行い、課題の洗い出しを行うことを予定しているが、それに必要な材料費やプロセス費は本予算から充当する。またQCレーザを波長掃引してPMMCやPDCMA等の有機化合物に照射し、振動遷移増強によるラマン光増幅の予備実験を行う。測定には顕微レーザーラマン分光装置や近接場ラマン分光装置を用いるが、QCレーザ光を導入するための準備が必要となる。その目的で中赤外光学レンズやARコート、光学微調台等を購入する。NIMSや和歌山大学での打ち合わせや実験も予定しており、その交通費や宿泊代を本予算から充当する。FDTD計算ソフトは次年度は保守契約料を払って使用する。 光アンテナでは中赤外スロット・アンテナの垂直方向の感度敏感性や表面近傍をのみを高感度で検出できる事、またその応用についてスペインで開かれる近接場光学に関する国際会議で発表する予定。QCLの戻り光雑音に関してもイギリスで開催される国際会議で発表する予定。また秋季と春季に開催される国内学会で成果を積極的に発表していく。
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Research Products
(4 results)