2012 Fiscal Year Research-status Report
低雑音量子カスケード・レーザと近接場ラマン分光応用に向けた光アンテナ・プローブ
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23560043
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
笠原 健一 立命館大学, 理工学部, 教授 (70367994)
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Keywords | 量子カスケード・レーザ / 強度雑音 / 戻り光誘起雑音 / 光アンテナ |
Research Abstract |
目的の一つである「中赤外QCレーザの動的条件下における位相・強度雑音の低減に向けての設計指針 確立」では戻り光誘起雑音の測定と、その時の戻り光量の大きさの見積もりを同時に求めるために「自己混合法」を用いる手法を考案した。中赤外域ではアイソレータが無く、分光用QCレーザは通常は単一モード化されているので、戻り光耐性が弱いことが懸念される。しかしながらこれを定量的に測定した報告は無かった。研究ではQCレーザの出力光を2分岐し、一方を反射ミラーを使ってQCレーザに戻した。反射ミラーはボイス・ミラーにのせた。戻り光誘起雑音を測定した後、ボイス・ミラーを動かし、反射ミラーを振動させることで自己結合波形を出した。ここから戻り光誘起雑音に関わる、戻り光量の大きさや、線幅増大係数を求めた。実験では戻り光量は2%以上あることが分かったが、QCミラーの共振器長が長く、線幅増大係数が小さいことから戻り光による雑音の増加は見られなかった。この結果は学術論文誌に投稿したが、査読者等から高く評価され、掲載号のトピックとして成果の一部が写真として掲載されることになった。 もう一つの目的である「振動遷移増強-近接場ラマン分光」ではケイヒ皮酸ベンジル等の有機化合物にArレーザ光とQCレーザ光を同時に照射することで、振動遷移増強によるラマン光増幅が起こるか調べた。測定には立命館大学にあるラマン分光装置を用いて行った。2つのレーザ光の偏光は一致させるようにして調べているが、今のところ増強される結果は見えていない。この理由としてはQCレーザ光に対する有機化合物の吸収が強すぎ、Arレーザ光とのオーバラップする領域が少ないために予想する効果が実現できていないものと考えている。一方、並行して進めている光アンテナ・プローブの予備実験としての光アンテナでは予想外の進展と知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
戻り光誘起雑音の大きさを測定し、「自己混合法」で同時にその時の戻り光量の大きさを求めることに成功した。戻り光量は2%以上であったが雑音は戻り光が無いときと比べて変化がなかった。「自己混合法」では線幅増大係数も同時に求められ、-2.2であった。2%もの戻り光量があれば、通常の1.5um半導体レーザでは大きな雑音が発生し、コヒーレント・コラプスが起きる。QCレーザがこのようにならなかったのは共振器長が通常よりも~10倍以上長く、線幅増大係数も小さいためであることが改めて分かった。 光アンテナについてはこれまで色々、研究がなされてきているが、層厚方向の電界増強度は必ずしも詳細に調べられていない。そこで今回、光アンテナの形状や測定対象となる下地の膜厚を変えた素子を作製し、顕微FT-IRで反射率を測定することで光アンテナの光電界増強特性を調べた。 光アンテナはSi基板やAl2O3/Si基板上に形成した。Al2O3/Siでは原子層レベルで膜厚制御が可能な原子層堆積法を用い、20、40、60Åの厚さでAl2O3をSi基板上に設けた。Si基板上の光アンテナの測定結果を見ると、アンテナによる共鳴特性とは異なるスペクトルが~1250cm-1に確認でき、本スペクトルはSi表面に形成された自然酸化膜(数10Å)での表面フォノン・ポラリトン(SPP)によるものであることが分かった。Al2O3では層厚が20ÅだとAl2O3が無いものとスペクトルは似ていた。しかしながら、Al2O3の層厚が増大すると1250cm-1の信号は見られなくなった。これらの結果から入射光はアンテナ効果で平面方向だけでなく、層厚方向にも数10Åといった狭い領域に閉じこめられ、その部分にある物質の情報を反射率を通して得られていることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画の柱の一つは既存の可視光による近接場ラマン分光の感度を上げることが目的である。これは更に進めるつもりでいるが、もし、予定どうりに行かない場合は提案時に考えていたような方向に切り替える。近年、SiC微粒子を使うと局所フォノン・ポラリトンの効果で~10μmの赤外光が増強されるという提案が成されているが、使用波長域が限定されるという問題がある。それに比べて光アンテナ・プローブはアンテナ長によって波長域を自由に設定できるという利点があり、仮に当初の計画が思うようにいかない場合は、表面増強赤外吸収分光(SEIRA)に光アンテナの方向を展開させる。幸いにも今年度の光アンテナの試作、評価実験からいくつかの知見が得られた。これらを活かすようにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「可視光による近接場ラマン分光の感度上昇」に向けて、光アンテナ、光アンテナ・プローブの作製を行う。また「QCレーザの動的条件下における位相・強度雑音の低減に向けての設計指針 確立」では目的はほぼ達成されつつあるが、戻り光によってスペクトルがどうなっているか実際に測定しようと考えている。これまでどこからも報告が無く、QCレーザの応用上、意義があるはずである。H24年度は光アンテナの特性を把握してからプローブ試作を行う予定であったが、光アンテナの部分で時間がかかり、プローブまで進めなかった。未使用金が発生した分はH25年度に使用する。
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Research Products
(4 results)