2012 Fiscal Year Research-status Report
超微細粒銅は機械・機能性材料としての耐疲労特性を有するか
Project/Area Number |
23560093
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
後藤 真宏 大分大学, 工学部, 教授 (30170468)
|
Keywords | 結晶粒微細化 / 銅 / 疲労 / き裂進展 / 切欠効果 |
Research Abstract |
本研究では,形状と位置の異なる応力集中部を有する部材の疲労損傷を組織変化と微視的き裂の挙動の関連に注目して明らかにし,機械電子部品の設計データおよび耐疲労特性の改善のための物理的背景を示す.そのため昨年度に引き続き,1)欠陥位置とき裂進展挙動,2)応力変動とき裂進展機構,3)超微細組織の切欠効果についての研究を並行して行った.それぞれについての研究実績の概要を以下に示す. 1)欠陥位置とき裂の進展挙動:等軸結晶を有するにも関わらず疲労損傷発生形態にECAP最終せん断面と関係した異方性が認められる本材料のき裂発生位置による疲労強度とき裂進展挙動の違いを解明した.昨年度はECAPせん断方向と45°の位置にき裂発生起点がある場合にき裂進展方向に応力レベル依存性があることが明らかになった.本年度は,EBSD,TEMによる組織解析を行い,き裂進展挙動と応力レベルの関係を明らかにした.また,90°位置孔についてもき裂進展挙動を調べた. 2)応力変動とき裂進展機構:本研究では,き裂発生箇所を特定した試験片を用いて,2段2重応力下の疲労試験を行い,進展挙動に及ぼす応力変化の影響を検討した.昨年度は,1)から得られた結果と併せて,高応力と低応力におけるき裂進展機構を示した.本年度は,EBSDを用いて応力切換え前後のき裂周辺の組織解析を行い,応力により異なるき裂進展機構が生じた物理的根拠を解明した. 3)超微細粒組織の切欠効果:昨年度は、線形切欠力学による評価がほとんど行われていない通常結晶粒寸法の銅の疲労試験を行い,各種形状の切欠材のS-N曲線を求め,分岐点の切欠半径を明らかにした.本年度は,ECAP材の分岐点の切欠き半径を求め,線形切欠き力学による評価を行った.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
形状および位置の異なる応力集中部を有する部材の疲労損傷を組織変化と微視的き裂の挙動の関連に注目して明らかにするため,3種類の観点の異なる研究を並行して行った.3つの研究の達成状況は以下の通りである. 1)欠陥位置とき裂進展挙動:本年度は,昨年度明らかにした「45°位置孔から発生したき裂は,高応力下では45°方向に直線的に,低応力下では主応力方向に直角にジグザグの経路で進展する」の原因を調べた.低応力と高応力におけるき裂先端近傍の疲労損傷を連続観察し,き裂が低応力下ではストライエーション形成機構により,高応力下では最大せん断応力により誘起されたせん断帯の発生と分離機構によることを明らかにした.また,90°位置孔からのき裂進展に応力レベルの影響は見られないことを示した. 2)応力変動とき裂進展機構:昨年度示した45°位置孔に関する2段2重応力試験のき裂進展挙動が応力履歴に影響される原因を検討するため,応力切換え前後のき裂進展経路周辺の組織をEBSDにより解析した.その結果,進展挙動に動的再結晶が影響し,動的再結晶の程度に応力履歴が関係し,き裂進展経路の多様性を生じたことが明らかになった.ただ,丸棒試験片表面の微小き裂周辺の組織をEBSD解析することは困難を要し,その手法を確立するのにかなりの時間を費やした.そのため,本年度予定していた「90°位置孔に関する変動応力の研究は行えなかった.これは,次年度行う予定である. 3)超微細粒組織の切欠効果:本年度は超微細粒銅の切欠効果を調べた.その結果,分岐点の切欠半径は通常結晶粒寸法の材料と同じであること,また線形切欠力学による疲労限度の予測が結晶粒寸法に関係なく同じマスターカーブで予測可能であることを示した. 以上を総合した結果,研究項目2)に当初計画目的を達成しない部分が一部あるものの,全体としては「おおむね順調に進展している」と判定した.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は,今年度に引き続き3つの研究計画を並行して行う.すなわち, 1)欠陥位置とき裂進展挙動については,これまでの研究成果を踏まえ,45°位置孔と90°位置孔にける高低応力の下でのき裂進展機構の違いの物理的背景を明らかにする.その際,各応力レベルにおけるき裂先端近傍の表面損傷の形成挙動を孔位置の違いを考慮して比較検討するとともに,試験片内部方向の進展挙動も併せて明らかにする.さらに,き裂進展速度の応力拡大係数による整理,およびき裂進展経路と周辺組織との関連をEBSD解析を通して解明する. 2)応力変動とき裂進展機構については,90°位置孔から発生した微小き裂の2段2重変動応力試験を行い,応力切換え前後のき裂先端近傍の表面損傷におよぼす負荷順序による違いを比較検討し,き裂進展に及ぼす応力変動と超微細組織の関係を明らかにする.更に,45°位置孔からのき裂の結果と併せて,本材料の疲労損傷に及ぼす応力変動の意味を明らかにする. 3)超微細粒組織の切欠効果については,昨年度までの研究から得られた成果(超微細粒の静的強度は通常寸法を有する結晶粒の銅材料に比べ著しく大きいが,疲労限度に大きな違いが認められない)の原因を明らかにすると共に,切欠材の疲労限度向上を目指し組織安定化のための回復焼きなましの効果を調べる.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,設備物品の購入は無く,研究遂行に要する消耗品,研究成果発表のための旅費,調査研究のための旅費,およびその他の経費(論文掲載料,学会登録費など)を所用する予定である. なお,本年度の使用予定研究費から213,853円の残額が生じた.これは,上記研究項目:2)応力変動とき裂進展機構において,表面微小き裂周辺組織のEBSD解析手法の確立にかなりの時間を要したため,当初その後の実験に購入する予定の消耗品の購入を行わなかったこと,および実験時間が足りなくなり予定していた国際会議の申込期限までに研究成果が得られず,当初これに充てる予定の旅費が執行できなかったことによる.残額については,次年度に消耗品を購入するとともに,国際会議に成果を発表するための旅費として使用する予定である.
|
Research Products
(15 results)