2012 Fiscal Year Research-status Report
多層膜断面におけるナノ材料のセルフパターニングと樹脂表面への転写
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23560130
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
金子 新 首都大学東京, システムデザイン研究科, 准教授 (30347273)
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Keywords | ナノ材料 / パターニング / コンタクトプリント / トランスファープリント |
Research Abstract |
今年度は,はじめに転写装置の改良として,ロードセルを組み込んで転写時の圧力測定を行えるようにした.また,同装置の基礎特性試験を行い,当該装置の課題を抽出して一部の設計変更を行った. 次いで,ナノ材料を吸着させる多層膜の形成し,その多層膜断面をテンプレートとするために把持しやすい樹脂性基板への転写させた.あらかじめエッチング等で前加工したシリコーン系樹脂構造に,金属の蒸着膜,スパッタ膜,およびめっき膜による多層膜を形成した.なお,めっき膜については当該研究費で購入した電気めっき装置を用いており,めっきの最適条件についても調査を行った. 高分解能FE-SEMで作製した多層膜観察したところ,各膜厚は最も薄いもので100ナノメートル以下であり,めっきを使用した場合には数10マイクロメートルである.後者の厚膜は前者(ナノスケール薄膜)の強化層と位置付けている.なお,各材料についてはEDXによる元素分析で確認している.この多層膜断面をナノ材料を吸着させるテンプレートにするため,シリコーン樹脂から剥離して把持しやすい別の樹脂基板への転写させた.転写時の応力の不均一さから,多層膜の一部は破断したものの,条件を適切にすることで高い成功率で転写を実現した. 最後に,多層膜断面を模したマイクロメートルスケールの微小領域を作製し,同領域へのタンパク質吸着を試みた.溶液中での自律的吸着法を採用しており,表面の構成材料がタンパク質と逆電位を示す場合だけではなく,ほぼ同程度の表面電位を示す場合でも吸着できることを確認した.吸着工程によるタンパク質の変性は無視できる程度であり,培養細胞の接着が問題なく生じることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,多層膜断面をテンプレートとしたナノ材料の吸着と転写プロセスの基礎特性を明らかにするものである. 今年度は,初年度に明らかになった転写装置の課題改善(改良),各種製膜方法を採用した多層膜断面の形成,多層膜断面を転写装置に取り付けるための樹脂基板への転写,および微小領域へのナノ材料(タンパク質,カーボンナノチューブ)の吸着特性評価を行ってきた.これらの結果の詳細は,前述の研究実績の概要に示すとおりであるが,概ね当初の予定通りの成果が得られている. ただし,多層膜断面を保持しやすい樹脂基板への転写は成功したが,その樹脂基板の加工方法及び精度の点で,いくつかの課題が新たに生じた.そのため,当該部分に関して言えば達成度は70%程度と言えるが,当該年度終了後から課題解決に取り組んでおり,今後は当初案と同程度のスケジュールで研究が進められると考えている.また,カーボンナノチューブを吸着させたときの,その形状の不均一さ再現性の低さも新たな課題として生じた.この点についても達成度は80%程度と言えるが,上記の原因をCNTの分散性であり,かつ予備的実験により超音波撹拌で改善可能であることを確認している.しこのことから,この達成度の遅れについても,次年度は十分に取り戻せると考えられる.なお,上記の達成度の遅れを当該年度中に解決できなかった原因としては,電気めっきの成膜条件調査に当初の予定より時間がかかったためである. 以上から当該年度の研究は,おおむね順調な成果が出たといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は前年度作製した多層膜構造を用いて,その断面への物質吸着と別基板への転写を試みる.まず,物質を吸着させる中間層としては,スパッタさせた金薄膜を採用する.はじめに,転写物質となるタンパク質の吸着量(被覆率)を向上させるため,金薄膜断面の表面修飾を試みる.金表面にはチオール系自己組織化単分子膜が形成できることがよく知られているが,ナノスケールの断面への作製例はなく,適切な作製条件を明らかにすることが必要である.また,その多層膜断面を原子間力顕微鏡で観察することで,テンプレートとしての基礎特性(表面モフォロジー)を調査する. 次いで,数種類のタンパク質と短尺のカーボンナノチューブ(CNT)を対象として,同断面への吸着と別基板への転写実験を行う.前年度の研究により,対象とするタンパク質への蛍光ラベル化と溶液中での吸着のための諸条件が明らかにしている.一方で,CNTについても前年度の研究で吸着量制御の方針を明らかにしている.これらの条件を用いて,多層膜断面への吸着と自作装置による転写を試みる.具体的には,金薄膜および強化層の膜厚および膜厚比を変え,それらが基板へのタンパク質またはCNTの転写率へ及ぼす影響を調査する.転写された構造については原子間力顕微鏡と蛍光顕微鏡を用いて観察し,その寸法,形状精度,転写の選択性を評価する. 最後に,転写によりナノパターン化したタンパク質またはCNTの機能性を評価するため,これらの特異吸着する物質を対象とした試験を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度において直接経費の未使用額(残金)が発生した理由は,購入予定の機器類の一部を現有設備からの転用および調達方法の工夫によって経費減が可能になったためである. 次年度の研究計画を実施するため,研究費は以下の(1)~(5)を主な使途とする.(1)チオール系自己組織化単分子膜形成,(2)カーボンナノチューブ分散用の超音波撹拌装置,(3)転写装置の一部改良,(4)研究成果の学術雑誌論文,国際会議,および国内学会への発表,(5)前述の(1)~(4)を実施するための実験補助者の雇用である. (1)では,金薄膜(多層膜)断面へ自己組織化単分子膜を形成するため,アルカンチールなどの試薬と有機溶剤,真空排気型グローブボックスの置換用乾燥窒素,試料設置(浸漬)用のジグを購入する資金に充当する.(2)では,前年度購入したカーボンナノチューブの溶液分散性を向上させるために,超音波撹拌装置と微量溶液用オプションである直径ミリメートルオーダーの撹拌子を購入する資金に充当する.(3)では,試料の微小位置合わせ用として圧電アクチュエーターを購入する資金に充当する.(4)では,アジア精密工学国際会議(ASPEN,台湾),機械学会M&P,機械学会年次大会などの発表のための参加費・旅費,そして機械学会誌やJJAPなどの各種学術雑誌への論文投稿料に充当する.(5)では,転写や吸着などの各種実験において,その効率的遂行のために大学院生などの実験補助者を雇用するので,その謝金に充当する.
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Research Products
(13 results)