2012 Fiscal Year Research-status Report
人工股関節を流体潤滑する摩擦面形状の理論設計およびそれに準拠した試作と評価
Project/Area Number |
23560170
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
馬渕 清資 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (70118842)
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Keywords | 人工股関節 / 潤滑性能 / 摩擦係数 / 半径差 / 表面精度 |
Research Abstract |
本年度は,昨年度に引き続いて金属―金属人工股関節の加工精度の向上による流体潤滑性能の獲得の可否について検討することから開始し,円弧求心型研磨法にて作成した骨頭径32 mmのCo-Cr-Mo製金属骨頭と金属臼蓋を組み合わせ,様々な半径差における摩擦試験を行なった.摩擦測定は,振子型試験器を用いた揺動振子法にて行なった.潤滑液として生理食塩液を臼蓋に満たし,室温23℃の下で実験した.実験の結果,真球度の劣化および表面粗さの増加に伴い,摩擦係数が増加する事がわかった.しかし,製品版の人工股関節を含めて,可能な限り高精度で加工した人工股関節摩擦面の潤滑性能は,摩擦係数の最小値が0.1を越えており,十分な流体潤滑性能の獲得はできなかった. そうした経過の中で,今年度になって2009年に隆盛を見た金属同士の摩擦面を有する人工股関節周囲に,高頻度で異常組織増殖が発生することが頻繁に報告されるようになった.その原因として,骨頭と頸部の間のフレッテイング摩耗に伴う金属イオンの溶出が推定され,人工臼蓋と人工骨頭の摩擦面で流体潤滑が実現できない場合に,その部分の高い摩擦のため,骨頭と頸部の間のテーパジャンクション部分で滑りが発生すると考えられた.摩擦トルクのつり合い条件を基にした解析の結果,頸部軸と荷重方向の角度が約84.5 度より大きい時に骨頭と頸部の間が滑り出すと推定された.振り子摩擦測定試験機を応用してシミュレーション試験を行って,骨頭頸部の間の滑りが発生する条件を検証することができた.この角度条件は,患者が座位を取ると容易に発生することから,今後,金属―金属摩擦面を有する人工股関節の使用を控えるべきであると結論した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画においては,人工骨頭と人工臼蓋の間の潤滑のみを対象として,その流体潤滑の構築を目指した.その結果,金属―金属の摩擦面の精度向上による潤滑性能の向上には,限界があることがわかった.すなわち,骨頭と臼蓋の間では,高い摩擦が発生することがわかった.この点を踏まえて,人工骨頭と頸部のテーパジュンクションにおける滑り条件を解析し,フレッテイング摩耗が発生する条件を求めることに成功した.さらに,その発生条件について,実験による検証に成功した.現在臨床に広く用いられているモジュラー型の人工関節に警鐘を鳴らすことにつながる重要な成果となった.一方,臨床結果として得られた超高分子量ポリエチレン製人工骨頭と金属臼蓋を組み合わせた人工股関節の長期成績から,人工骨頭をポリエチレンとすることで,骨頭と頸部の間の摩擦条件を緩和し,この部分におけるフレッテイング摩耗を低減できる可能性が示された.この事実は,今後の方向性を示した.
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Strategy for Future Research Activity |
金属骨頭と金属臼蓋を組み合わせた場合の限界を確定するため,これまでの研究で潤滑剤として用いていた生理食塩液を人工関節置換術後に想定される二次関節液の粘性係数に合わせた潤滑剤を用いた摩擦測定実験を行う.さらに,他の材料の組み合わせに,特に,セラミックス骨頭とセラミックス臼蓋を用いた場合について,流体潤滑効果を検証するため,長時間静止荷重を受けた後の滑り動作による流体膜の形成メカニズムを,数値モデルを用いた流体解析を実施する. モジュラー型ステムで問題となる骨頭と頸部の間での摩耗を低減する方法について検討し,種々の材料との組み合わせについて,摩耗にともなう金属イオンの溶出量を測定する.実験的方法で金属イオンの溶出量を逐次モニタするためのシステムを構築する. 人工臼蓋の変形量を有限要素解析により求める.その結果を基に,骨頭表面とのクランピングによる流体潤滑機構の破綻を防ぐための形状,材質の設計条件を構築する. 本研究課題の成果全体を基にして,人工股関節の材質,形状をデザインし臨床応用を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
有限要素モデル作成ソフトウエア 150万円 人工関節試験片 30万円
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