2012 Fiscal Year Research-status Report
傾斜遠心顕微鏡を用いた血管表面の凹凸が好中球の挙動に与える影響に関する実験的研究
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23560183
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
白井 敦 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (20302226)
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Keywords | 好中球 / 血管内皮細胞 / 傾斜遠心顕微鏡 / HL60 / ATRA / PTV |
Research Abstract |
平成24年度は,これまで実験に用いてきた白血球のモデル細胞であるHL60を,全トランス型レチノイン酸(All-trans retinoic acid; ATRA)で好中球様細胞に分化させ,傾斜遠心顕微鏡を用いてHL60の分化が傾斜遠心力下における挙動に与える影響を実験的に解析した. 当該年度は,まず,HL60の分化技術の習得を行った.ATRAを99.5%エタノールで溶解させた後,ATRAの最終濃度が1μMとなるように静地培養したHL60に添加した.その後,CO2濃度5%,37℃で5日間培養した結果,NBT還元法により90%以上の細胞が分化したことを確認した.以下の実験では,ATRAの影響を排除する目的で,PBSで一回洗浄し,5e+5 cells/mlの濃度に調整した細胞を用いた. 次に,この細胞を用い,ガラス平板上における挙動をPTV解析するとともに,未分化のHL60との比較を行った.傾斜遠心顕微鏡の作動条件は,ガラス平板に対する細胞の押しつけ力FN = 74 pN,細胞の駆動力FT = 30 pNとし,PTVによって各細胞の移動埴土を計測した.計測では,移動速度が5.27μm/s以下の細胞をガラス平板に付着した細胞とし,速度の全データ数中におけるこの範囲のデータ数を付着率と定義し,これを除いた細胞速度の平均値を平均移動速度と定義した. その結果,ガラス平板に対するHL60の付着率は,分化によって約2倍に増加することが確認された.また,平均移動速度に関しては,付着率ほどの差はないものの,分化したHL60の方が小さいことが確認された.個々の細胞の挙動を詳細に観察したところ,分化したHL60はstick-slip運動が見られたことから,平均移動速度の差は,この運動における細胞の加減速に起因し,細胞表面の接着分子を考慮する必要があることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に予定していた,HL60と好中球との際に関する調査について,HL60を好中球様細胞に分化させることによって,平成24年度に予定してた研究は順調に消化され,細胞分化技術の習得と併せて,以降の研究のための重要な基礎データを蓄積した.また,ガラス平板の洗浄方法によって得られるデータにばらつきが見られ,洗浄方法の確立に時間がかかったが,良好な結果が得られる洗浄方法を確立した. 実験計測において,当初は,分化したHL60の挙動の変化はその機械的特性の変化,すなわち細胞が固くなることに起因して,移動速度が上昇すると予想していたが,ガラス平板に対する付着率が分化によって大きく上昇することが示されており,接着分子の発現も影響することが示唆された.分化による細胞機能の発現により,ガラス平板を異物として認識した可能性があるが,顕微鏡観察では形状変化が認められなかったため,細胞の粘着を防止するコーティングをガラス平板に施し,この変化の要因を明らかにする必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で述べたように,分化によるHL60の付着率の上昇が接着分子に起因するかを明らかにする必要がある.そのため,まず,細胞やタンパクの接着を阻害するMPCポリマーでガラス平板をコーティングし,この上におけるHL60の挙動を比較する.これにより,付着率及び平均移動速度の差異が,細胞の機械的特性の変化,細胞の形状変化,または接着分子の発現の何に起因するかが明らかになる. 続いて,ガラス平板上に血管内皮細胞を培養し,この上におけるHL60の挙動を解析する.その結果をガラス平板における細胞挙動の結果と比隠すことにより,血管内における好中球の挙動において,内皮表面の凹凸と接着分子の結合のどちらが支配的かを明らかにする.また,これと平行して,ガラス平板にセレクチンを塗布した場合の挙動を解析し,これらと比較することで,炎症反応における細胞接着の変化に関する力学モデルを構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度未使用額は,研究を効率的に推進したこと,および細胞分化技術の習得が想定より早く完了したことに起因する.平成25年度は,これと合わせて当該年度に計画している研究の遂行に使用する予定である.
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Research Products
(4 results)