2012 Fiscal Year Research-status Report
高分子鎖コイル-ストレッチ遷移における非アファイン性に着目した抵抗低減機構の解明
Project/Area Number |
23560188
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
堀内 潔 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (10173626)
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Keywords | 抵抗低減 / 高分子添加溶液 / 界面活性剤 / 粘弾性流体 / Brownian dynamics / Elastic dumbbell model / 反変・共変ベクトル / エネルギーカスケード |
Research Abstract |
本年度は,高分子鎖を連結粒子系として近似するBrownian dynamics simulation と乱流のDNSとの結合 (BDS-DNS) 法を用いて非アファイン粘弾性流体における抵抗低減機構の解明を目指した.一様等方乱流を対象として昨年度開発した並列コードを用いた計算を実行した.2個のbeadsをバネで結合したbeads-springにFENE補正を導入したdumbbellモデルを用い,beads間ベクトルRの時間発展を追跡した.DNSでは外力により定常状態を維持し,BDSではdumbbell の運動にslip velocityを付与して非affine性を導入したBDS-DNSを実現し,得られる高分子応力の寄与をDNSにフィードバックするtwo-way couplingを用いた.必要なdumbbell の個数の理論的見積は10の13乗個程度と膨大になるため,10の6乗から最大9乗個とし,高分子応力に乗数を掛ける事によって不足分をreplicaとして模倣した.この結果,Johnson-Segalman (J-S)構成方程式を用いたDNSと同様な抵抗低減が得られる事を示した.非アファイン性が最大の場合dumbbell は共変ベクトルとして運動して渦層に張力を及ぼすため,反変ベクトルとして運動して渦管の伸長を抑制する非アファイン性最小の場合に比べて,大きな抵抗低減が得られる事を示し, J-S方程式によるDNSとの整合性を示した.一方,最大と最小のdumbbellを1対1に混合した場合は,両者各々単独の場合の中間の低減が得られた.これは,J-S方程式による結果と異なるが,これが,最大と最小のdumbbellが同等に伸長しない事に起因する事を示した.更に,最大のdumbbell 1個と最小のdumbbell 2個が互いに直交するユニットを形成して運動する事を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H24年度の研究目的は,抵抗低減機構の解明に必須な情報である高分子鎖の配向,伸長と空間分布を解析する事にあった.ここでは,高分子のBrownian dynamicsと溶媒の DNSを結合するBDS-DNSを採用した.新たにreplica法を導入してone-way couplingからtwo-way couplingに移行した,並列型計算機向きのコードの開発と実行を行い,抵抗低減が実際に得られる事を確認し,非アファイン性が最小の場合,dumbbell は反変ベクトルとして運動し渦管の軸方向に並列して配向する事,最大の場合は共変ベクトルとして運動し,渦層の法線方向に並列して配向する事を示し,構成方程式を用いたDNSにおいて得られた予測を裏付ける事ができた.そして,dumbbellの選択的な配向により,最小と最大の場合では低減機構が異なり,最小では渦管の伸長が抑制されるのに対して,最大の場合,渦層に張力を及ぼす事によって渦層の不安定性による渦管の形成が抑制されるため顕著な抵抗低減が起きる事を明らかにした.交付申請書では想定されていなかった新しい結果として,非アファイン性が中間値の場合におけるdumbbellの配向の著しい特性が明らかにされた.即ち,非アファイン性が最小と最大のdumbbellを混合した場合,両dumbbellが直交する配置を取り,ユニットを形成するという結果であり,こうした要素の存在は従来の研究では指摘されていない.このユニットでは,最大のdumbbellの伸長が最小のdumbbellより大きいため,最小と最大が各々単独の場合の中間の抵抗低減が得られるが,これはJ-S方程式における抵抗低減消失という予測と異なり,J-S方程式の適用限界を明らかにした.この結果は,両dumbbellの配合によるより高効率な抵抗低減高分子のBDS-DNSによる設計の可能性を示唆する.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,先ず,dumbbellの伸長と減衰の素過程を明らかにする.このため少数のdumbbellを流れ場に導入し,その運動の時系列的な追跡を行う.特に,非アファイン性が最大の場合のdumbbellの伸長が最小の場合より大きくなる機構と,「研究実績の概要」および「現在までの達成度」で述べたdumbbell同士のユニット形成過程の解明に重点を置く.同時に,最大と最小のdumbbellの混合比の最適化による高効率な抵抗低減を可能とするユニットの設計を試みて,BDS-DNSによる新たな高分子の創出を図る. 現在行っているBDS-DNSでは,計算機資源の制約から,128の3乗程度が最大格子点数であるため,解析は低レイノルズ数に限られるが,格子点数の拡張を試みる予定である.また,dumbbell の個数も現状の10の9乗個程度から,並列度の増加による10の10乗-10の11乗個程度への拡張を行い,replicaによるモデル化の影響の削減を試みる. これまでの解析は一様等方性乱流を対象としているが,一様なせん断が掛かる流れ場におけるdumbbellの伸長の理論的な解析を行ったところ,dumbbellの伸長が起きるWeissenberg数の臨界値が1である事が判明した.せん断がない場合の臨界値の数値的な推定は5程度とされているので,一様せん断場ではより大きな伸長と抵抗低減率の増大が起きる可能性がある.したがって,今後の研究では,一様せん断乱流への移行を予定している.このため,H25年度には,現有のNewton性の一様せん断乱流のDNSコードをベースとしたBDS-DNS用コードの作成と実行を行う.このコードでは,一様等方性乱流のコードと同様なFourier展開によるスペクトル法を用いられているため,一様等方性乱流のBDS-DNSコードをそのまま転用でき,短期間での作業が可能である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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