2012 Fiscal Year Research-status Report
マイクロチャンネルにおける分子交換流を用いた気体分離法の開発
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23560196
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉元 宏 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50222055)
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Keywords | 気体膜分離 / 熱遷移流 / 希薄気体力学 / Knudsenポンプ / マイクロ流体 / MEMS / 分子流体力学 / 熱拡散 |
Research Abstract |
1.気体分離装置の試作:前年度の研究成果に基づいて,分子交換流による気体分離の実証試験装置を試作した.3cm四方のMCE濾紙片を用いた小さな装置であるが,数十度の温度差により,大気圧下で100cc/分以上の速さで分子気体流(熱遷移流)を誘起する.この装置を用いて,ヘリウム―ネオン,ヘリウム―アルゴン混合気体に対して大気圧下で混合気体の分離実験を行い,それぞれ約6%,15%程度までの濃度変化が得られることを確かめた.試作機で得られる濃度変化の大きさは,材料気体の流速に依存し,その最適値は濾紙上で約50cm/秒であった. 2.分離装置の数値シミュレーション:前年度構築した,気体分離装置内部の解析モデルを用い,試作機の性能の数値シミュレーションを行った.このモデルは,解析が困難な分子気体流を取り扱うために非常に大胆な近似を用いているが,その結果は,実験結果と定性的に一致するだけではなく,得られる濃度差や,濾紙に沿って流れる流速の最適値を,数倍程度の範囲内で正確に予想できた.気体種に対する依存性などの細部では実験結果とのずれが見られることも分かった. 3.数値解析ソフトウェアの改良:マイクロチャンネルにおいて,流路の3次元性が高いことに留意して,現有の混合希薄気体DSMC解析ソフトウェアの改良を進め,3次元問題の解析に対応させた.既存の機能(任意の気体成分数,任意の気体領域形状に対応,MPI並列計算)を保ちつつ,OPENMP並列化・オブジェクト指向の導入等を進めた結果,計算速度が2倍程度に向上した. 4.大気圧コロナ放電による気体流の調査:近年,電気工学分野を中心に,表記の気体流が研究されている.精密な理論は確立されていないようであるが,分子間の衝突に依存する流れであるため,混合気体分離にも応用でき,良いエネルギー効率が得られる可能性がある.その基礎的な調査実験に着手した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多孔質内部のマイクロチャンネルに発生する分子交換流を応用すれば,大気圧下で,僅かな温度差をエネルギー源として,混合気体の濃度を大きく変更できるということは,今年度までの研究で十分に示されたといえる.これと同時に,この方法で実現できる濃度変化量を短い計算時間で推定する解析モデルも構築することができた.これらは申請時の研究計画の軸となるものであり,内容・時期ともに予定通りである.このことから,研究の進展は「(2)おおむね順調」と評価できる.申請時に予定した多原子分子の流れへの応用については,実験・解析共に未着手であるが,申請時に無かった研究(流れの駆動力として大気圧コロナ放電を用いる研究)も進めており,総合的には妥当な進展状況であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
1.工業化可能性の検討:工業的応用を考慮に入れて、新しい気体分離法としての応用可能性について研究を進める.今年度に開発した手法を応用すれば,分離効率を高め,混合気体を完全分離する,すなわち,分離生成物がどちらも純物質となる分離が実現できる可能性がある.完全な分離は,気体膜分離などの手法では実現困難な工程であるため,工業的に価値が高い.この点に注目し,今年度までに得られた成果を利用して解析・実験を進める. 2.エネルギー効率の検討:今回提案する気体分離法は,外部から与えられる数十度の温度差だけで動作する.従って,様々な形態のエネルギー源が利用できる.しかし,温度差を電力で賄う場合,エネルギー効率は良いとは言えない.この課題について,現在のところ,(1)装置を積層構造とし,同一の熱流を複数回にわたって気体分離に利用する(2)温度差以外で気体分離を誘起する流れを用いる,の2通りの方針で調査する.装置の素材,流れの駆動方法などの観点から,検討を進める. 3.3D効果の解析:気体分離装置内部の気体の流れでは,MCE膜内のマイクロチャンネルにおける三次元性の効果や,膜の表裏の温度差を維持するための装置構造による,膜面に沿った流れの三次元性の効果が一定の影響を与えると考えられる.これらの影響を評価する数値シミュレーションを実施する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究では,上記1で述べた混合気体を完全分離するアイデアを考案した.その実現可能性は,まず数値シミュレーションで検討する必要があり,実際に試作試験を行うまでには,ある程度の研究期間が必要である.一方,そのアイデアを実証する実験では,今年度試作した装置(あるいは類似した装置)が複数台必要になると予想される.その製作費を確保するため,今年度の研究費の残額を利用する予定である.
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Research Products
(4 results)