2011 Fiscal Year Research-status Report
大規模ケーブルロボットにおける懸垂系動力学計算と高精度位置姿勢制御
Project/Area Number |
23560290
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山本 元司 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90202390)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | ロボット / ケーブルロボット / 位置姿勢制御 / 動力学モデル / ケーブル撓み / カテナリー曲線 / ケーブル運動 |
Research Abstract |
大規模ケーブルロボットは,大空間での重量物の搬送や懸垂物の位置決めが,比較的簡単な機構で実現できることから,近年,競技場でのアクティブカメラや大型天文台の懸垂機構として利用されている.しかし大規模ケーブルロボットでは,各ケーブルはワイヤ自重により撓(たわ)み,これにより懸垂物の正確な位置姿勢制御が困難となる.また,撓んだケーブルの運動は振動を生じることになり,制御はさらに難しい問題となる.そこで本研究ではこれまでのケーブルロボットでは検討されていなかった,ケーブルの撓みや振動を表現できる懸垂系の動力学計算手法を検討し,これを制御装置に組み込むことで大規模ケーブルロボットにおける高い精度の位置姿勢制御を実現することを目的とした. ケーブルロボットの高精度制御のためには,ケーブルを含む懸垂系の動力学モデルを確立したうえで,これを制御に利用することが重要である.しかし,有限要素モデルなど従来の柔軟ケーブルのモデル化手法は,制御で用いることを考えると計算コストが非常に大きい.そこで平成23年度の研究において,複数ケーブルと懸垂物の動力学計算を高速におこなう新たな手法を開発した. 具体的には,通常のケーブルの運動は多くの場合それほど複雑なものでなく,瞬間で見れば静力学を基礎とするカテナリー曲線に近似できるという事実から,これを基礎とし計算の容易な静力学モデルと懸垂物の剛体力学モデルを組み合わせることで,質量と弾性を考慮しケーブルの揺れや撓みを含むケーブル運動を表現できるモデル化に成功した.これはケーブル形状をカテナリー曲線で表し,懸垂物との接続点で力学拘束条件を満足するように運動方程式を解く手法となっている.これにより極めて低い計算コストでワイヤの弛みと1次モード振動を正確に表現できることがわかった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来のケーブル動力学モデルとしては,ケーブルは柔軟連続体であり,そのモデル化は偏微分方程式を基礎とするか,もしくケーブルの有限要素モデルを考えることが普通であった.しかし,これらの計算法を制御に用いるには計算コストが大きすぎる.例えば申請者はこの動力学計算法としてケーブルを単純な有限要素モデルで表現し,マルチボディダイナミクスとした場合の動力学計算をおこなった.この計算結果は実際のケーブルの挙動とよく一致することを確認している.例えばこの計算では,微分代数方程式5秒間のケーブル動作のシミュレーション(ケーブルは50要素)に約15分の計算時間がかかっていることから,この単純化した有限要素モデルでも制御に用いることはできないことがわかった. そこで平成23年度研究では,撓んだ状態でのケーブルの運動はほとんどの場合,静力学を基礎としたカテナリー曲線の幾何形状である事実を利用し,ケーブル静力学モデ(カテナリー曲線)と懸垂物の動力学の両方を考え,懸垂物の接続点での拘束力を連立してこれらの運動方程式を解き,結果的にケーブル撓みと懸垂系の揺れを表現できる計算手法を提案した.このとき,新しい計算手法によるケーブル運動解の精度を確認する必要がる.このためにはすでに開発している実際のケーブル運動を良く表現できる上述の単純化有限要素モデルを確認に用い,また実験によりケーブルの撓みおよびケーブルと懸垂物の揺れを実際に測定した.その結果提案の計算手法は,有限要素モデルによる結果とほぼ同じ結果となり,また,実験においても同様な結果が得られた.
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度で開発した,ケーブルの撓みを考慮したケーブルロボット動力学計算法を用い,与えられた懸垂物軌道から逆にケーブル長を計算し,これを目標軌道として制御すれば,懸垂物高精度制御が実現できる.しかし,実際にはモデル化誤差や外乱などにより,このようなオープンループ的手法では正確には制御できないと考えられる.高精度制御のためには懸垂物の位置姿勢を実際に計測し,その状態量をフィードバックする仕組みを導入することが望ましい. そこで,今後,懸垂物位置姿勢を推定する方法を検討する.前年度の画像による測定は計測に時間がかかるため,制御での利用は現実的ではない.そこで,申請者らがすでに提案しているフォーク状センサによるケーブル振れ角検出機構を直交して2組用い,プーリー根元での2次元ワイヤ振れ角を測定し,ケーブル形状計算と組み合わせて懸垂物の状態推定をおこなう. 次に,前年度開発の動力学計算手法を非線形動力学補償として利用し,懸垂物の状態を線形フィードバックすることにより高速・高精度に位置姿勢制御可能か調べる.このき,提案の計算手法では懸垂物とワイヤの接続点での拘束力計算がポイントとなっている.従ってこの計算結果が実際のケーブルロボットにおける拘束力と一致しているか,申請の荷重測定機と動ひずみ計により拘束力,ワイヤ張力を計測して確認する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の購入予定備品である小型荷重計測機と動ひずみ計は,懸垂物とケーブル接続点での拘束力を測定し,前年度提案した簡易力学モデルの結果と一致するか確認するために用いる.具体的には懸垂物を荷重計測機にあてながらケーブル張力を測定し,ワイヤ長を変化させてどれかのケーブル張力がゼロのときの荷重計の計測値から拘束力を推定する.これにより前年度提案した動力学計算手法の妥当性を確認する. また,前年度提案した動力学計算手法により非線形動力学部分を補償した制御系を設計し,パラレルワイヤロボットを製作して制御実験をおこなう.このため,平成24年度消耗品としてモータ,エンコーダカウンタボード,および実験用機械部品等を購入する.
|
Research Products
(6 results)